「ボス、カルーア様をお連れしました」
「ご苦労様」
2時半の少し前に橘は迎えに来て、俺を応接室に連れ出した。
その数分後に、客人が現れる。
カルーアさんとは前に何回か会っているらしく、ある程度は親しいらしい。
俺もボロを出さないように気を付けないとだな、
決して、記憶喪失のことは悟られちゃいけないのだから。
事前に見たデータによると、確か彼は86才。(もうかなりいい年のようだ)
それと、俺と同い年である24才の孫がいて、親の代わりに育ててきた……らしい。
彼のファミリーはそれなりに強いらしいが、まあボンゴレほどではないと思う。
「お久しぶりです、カルーアさん。お変わりないようですね、相変わらず元気そうでなによりです」
「おお、綱吉くんも全く変わらないね!相変わらずの色男だ」
「はは、カルーアさんには負けますよ。さ、どうぞこちらへ」
挨拶もそこそこにして、椅子に腰かけるよう促す。
橘は彼の帽子と杖を預かって、ドア近くに配置してある帽子立ての所にまとめて置いた。
流石に秘書という肩書きなだけあって、こういうところの対応はきちんとしていて素晴らしい。
すぐさま淹れたてのコーヒーを持ってきた。
「どうぞ、」
「ありがとう。うむ、ゆりちゃんのコーヒーはいつ飲んでも美味しいね、」
「そうですか?ふふ、お褒めの言葉ありがとうございます」
……どうやら、こいつとも親しい仲らしい。
話の中で時折、笑っている姿が見受けられる。
ふわり、静かに笑う橘。
橘の笑う姿なんて初めて見た、………いつも俺の前ではあんな風に笑わないし、無愛想なくせに。
ムカつく、俺にはどうして笑わないんだ。
あんなに綺麗に笑うのに、どうして俺にはあの笑顔を向けてくれないんだ。
「橘、下がれ」
「えっ、あ、………はい、すみません」
びくっと反応した彼女は、慌てて部屋から出て行く。
なんでそんなにビクビクするんだよ、お前は。
ああもう、なにもかもがムカつく…!
「どうした、彼女と喧嘩でもしてるのかい?」
「あ、いや……そんなことは」
「前に会った時は、……と言っても半年前になるかな。その時は今よりずっと仲良さそうに見えたが、……そうか、気のせいだったか」
「そう…ですか?」
仲良さそうに、か。
今の俺たちからは到底考えられそうもないことだな。
……でも実際、昔は仲良かったのだろうか。
そのことについて皆に尋ねても、誰も答えようとはしなかったけれど……
もしかしたら、その可能性もあり得る。
考えれば考えるほど頭の中はぐちゃぐちゃに絡まって、頭が痛くなってくる。
俺は思わず話を逸らした。
「そういえば、今日はどういった用件で?」
「ああ、そうだった。今日はね、縁談を持ってきたんだよ」
そう言って、彼は写真が入ってるだろうファイルを鞄から出す。
縁談?冗談じゃない。
まだ記憶が戻ってないというのに、こんな不安定な状態で結婚なんかできるか。
「悪いですがまだ俺には、」
「そう言わず見てやってくれ、ほら、私の孫だ。前に言った通り、ゆりちゃんにそっくりだろう?」
「………!」
無理矢理渡されたファイルの中には、こちらに向けて微笑んでいる女性の姿が。
確かに髪が長い所は似てるものの、この写真の女性は緩めのウェーブがかかっていて、ストレートな髪の橘とは少し印象が異なってくる。
それでも、この顔立ちといい、雰囲気といい…………
これは、紛れもなく、橘だ。
だけどこれが橘のわけがない。
現に、カルーアさんが自分の孫と言っているのだから。
「なかなかの子だろう?会ってみるだけでもどうだい?」
「………じゃあ、1度だけ」
……なぜだろう。
この写真の女性に、俺はとても興味が湧いた。
それは偶然か、必然か
(その笑顔に、惹かれた)
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