よく晴れたある日。
今日も私は、与えられているいつも通りの仕事をこなすのだ。
「ボス、本日は2時半からカルーア様との面会になってます」
「ああ」
「それから、えっと…………」
少し分厚めなスケジュール帳に目を通しつつ、欄に書かれている事柄を読み上げていく。(この間、綱吉も目を通したので少しくらいは覚えてるだろうけど……)
さすがに大きなファミリーのボスなだけあって、予定はたくさん詰まっていた。
今日はとあるファミリーのボスとの面会で、詳しい話は知らされてないけれど、何か大事な用らしい。
………今日の予定を全て伝えると、綱吉はあくびをしながら口を押さえた。
「ふあ…………もう下がっていいぞ」
「はい。……では、2時半近くになりましたらお迎えにあがりますね」
「わかった」
そして私は部屋を出る。
ただでさえ広い廊下なのに、1人で歩くとさらに広い感じがした。
えーと、2時半まであと1時間くらいかな……
それまで何をしてよう………?
-----------------
「………誰もいないのかあ」
暇だからと、ふらり、立ち寄った大広間。
誰か話し相手になりそうな人いるかな、なんて思ったんだけど………
なんでこんな時に限って誰一人いないんだろう。
すとん、ソファに腰かけてみる。
広い広い部屋にただ1人ぽつんと座っているのはすごく切なく思えた。
1人きりになれば綱吉のことばかり考えてしまう。
……そんな自分が嫌だった。
綺麗さっぱりリセットされて、もうなにもかも終わったのに……まだ、想いを捨てきれないなんて。
最初は、少しでも早く前と同じ関係に戻りたくて、綱吉に好いてもらえるよう前向きに考えてた。
でも、今は。
一生、綱吉に好いてもらえない気がする。
「おや、ゆり。こんなところにいたのですか」
「え、あ…骸さん」
人は考え事をしているときは周りが見えなくなると言うけれど、全くその通りだと思う。
いきなり声をかけられてびっくりした私は、目の前にまで来ていた骸さんに気付くことができなかった。
「探しましたよ。どこにもいないから」
「す、すみません」
「……何か悩みでも?」
そう言って彼は私の隣に腰かける。
やっぱり座っていても、体格差というのは丸分かりで。
骸さんは細身なのに、それでもどこか男らしさを感じさせるようなところがあった。
ごめんなさい、私、あなたにこれ以上迷惑をかけられないの。
これは私の気持ちの問題、だから。
「なんでもない、です」
「……そうですか、」
「それより、私を探してたんでしょう?何か用があったんじゃ……」
「ああ、そうでした。アルコバレーノから明日の件は大丈夫なのか聞くよう頼まれましてね」
「明日?明日というと……」
「ルイスファミリーの幹部の暗殺の件ですよ」
そういえばさっき手帳を見た時にそんなことが書いてあった気がする。
おかしいな……最近忘れっぽくなった……?
……いや気のせいだよね、うん。
「この間の会議でアルコバレーノが言ってたように、ゆりが暗殺任務を得意としないのは誰もが分かってます。それに綱吉のこともありますし、精神的にも今は……」
「大丈夫です」
「……無理をして倒れられては困るんですよ?」
「……私なら、もう、大丈夫ですから」
「まあ、アルコバレーノと山本武が一緒だそうなので心配する必要はなさそうですが…」
ただの強がりと思われているのだろうか。
確かにあまり体調は良くなかったりするけれど、でも久しぶりの任務だもの、やりたい。
大丈夫。
きっと大丈夫。
そう強く自分に言い聞かせて、立ち上がろうとしたその時だった。
目の前が真っ白になって、体中の力が一気に抜けていくような奇妙な感覚に陥る。
でもそれは一瞬のことで、何かにぶつかる感触で私は意識を戻した。
ぶつかった、というか当たったものはどうやら骸さんの腕で、床へ倒れ込みそうになった私を支えてくれたらしい。
骸さんは私をソファへ引き戻すと、代わりに溜め息をついた。
「まったく、どこが大丈夫なんです」
「……う……」
「やっぱり明日は止めなさい、」
「っ、いいです!全然平気ですから!」
「………………」
つい強く叫んでしまって、自己嫌悪に陥る。
骸さんはただ私を心配してくれただけなのに…
「す、みません、私、」
「いえ」
「……今は仕事に集中していたいんです」
彼に思い出してもらえないのなら、もういっそのこと私も昔のことを忘れてしまえばいいのではないかと思う。
…………そんなこと、できるわけないなんて充分わかっているけれど。
だって私は、今でもなお、変わらず綱吉のことを愛しているから……
全て忘れて、真っ白になることができたら………どんなに楽なのだろう?
早く、早く思いだしてよ綱吉…っ!
忘れたい想い
(いっそのこと忘れたい、なんて言ったら現実から逃げてる事になるのかな)
← →
:)戻る