いよいよこの日がやってきました。

綱吉が退院する日。
そして、ボンゴレへ帰ってくる日。



「十代目、退院おめでとうございますうううううっ!!!」

「ああ。俺が不在の間、ご苦労様」



屋敷にはたくさんの人たちが集まっていて、みんな綱吉の退院を祝ってくれていた。
特に、隼人なんて感極まって泣いてるし……(よほど嬉しかったんだろうなあ)
さすがボンゴレのボスだよね、部下たちにとても愛されてる。



「ではボス、部屋に行きましょう」

「別に1人でもいけるし」

「これも秘書の仕事のうちの一つですから」

「……あっそ」



私は綱吉の前に立ち歩き出す。
すると彼は大人しく着いてきてくれた。
……ああ、こうして2人で歩くのって何日ぶりなんだろう?
なんだか、事件前のことがものすごく昔のことのように思えてくる。(実際には、数週間前だけどね)

自分の大好きな人が元気にまたここへ帰ってこられた、そう思うだけで今の私は幸せだ。
だって、会えないわけじゃない。
これからも毎日、私は綱吉に会える。
秘書としてなら、そばにいられる。
…………だから。



「着きましたよ」



少したって、綱吉の大きな部屋の前につく。
屋敷自体がものすごく大きいから(守護者たちも住んでるしね)、到着するまでに少し時間がかかってしまうのだ。

ドアを開けて中へ通せば、彼は驚いたような顔で辺りを見回した。



「どうかされましたか?」

「…ここは本当に俺の部屋なのか?」

「はい、間違いありませんが……」

「なんだか……変な気分。まるで他人の部屋にいるみたいだ」

「……………そうですか?」

「それに、ずいぶんと物の配置が変わってるんだな」

「…ああ、それはボスが覚えているのは三年前の部屋ですし、仕方ないですよ。模様替えもしたみたいだし」

「……………」



もう一度、くるりと見回す。
確かにこの部屋に来た最後の記憶が三年前のものだとしたら、自分の部屋があまりにも変わっていて少し変な気持ちになるかもしれない。
私も、綱吉の立場だったら多分こんなふうになってると思うし……

ていうか、もし私が三年前の記憶を失っていたら。
きっと私はこのボンゴレのことなんて全然覚えていないだろう。
そして彼のことも、恋人だったことさえも忘れて。
きっと、今の綱吉みたいに…………
…………もし、私たちの立場が逆だったら、綱吉は記憶喪失の私にどう対応したかな?
いつもどおり、愛してくれたかな?
私がどんなに拒否しても、変わらずにそばにいてくれたかな?

…………なんて、そんなことを考えても意味ないのに。

だって、あくまで今記憶がないのは綱吉。
私じゃない。



「では、私はこれで失礼しますね」

「ああ。…………あ、そうだ、橘に頼みたいことが」

「は、はい!」



どきん、と一瞬胸が高鳴る。
い、今、初めて橘って言ってくれたよね?
お前、とか、おい、とかじゃなく。
私の名前(正しくは名字だけど)を読んでくれたよね………?
それに、今は普通に会話できてる気がする。

しばらく停止していたら、不思議そうな顔をして綱吉は聞いた。



「どうしたんだ?」

「あ、いえ………ただ、ボスに久しぶりに名字を呼ばれたなあ、って……」

「……………あ、そう」

「えっと、それで何ですか?私に頼みたいことって」

「俺が知らない三年間に起きた事件や周りのファミリーの現状、あとは今のボンゴレの戦力とか、そういったあらゆる情報が欲しいんだ。今から本部に戻るから、そしたら俺のところまで参考になるものを持ってきてほしい」

「それは構いませんけど………どうしても今からですか?」

「そうだけど、なにか問題でも?」

「………ボスは退院したばかりでしょう?」

「もう大丈夫だ。それに、これ以上ファミリーのみんなには迷惑かけられないし。だから早いとこ現状把握しないとな」

「はい……わかりました」



大丈夫だとか言ってるけど、本当に大丈夫なの?
あなたは今日退院したばかりでしょう?
…………絶対に無理してる、ってわかってるのに。
私はあなたを止められない。
そんな無力さが………もどかしい。

だから、せめて今の私に出来ることは……


『綱吉を、そっと見守り支えること』


……………それだけ。





わたしの役目

(どうか、無理だけはしないでください)






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