一人部屋でのベッド。
そのうえでいつものように暇だからと読書をしていれば、今日訪ねてきたのは俺がよく知っている人で。
いつもはこの時間に秘書の……誰だったか名前忘れたけど、そいつが来ているはずなのに今日は珍しくまだ来ていない。
それだけでおかしいと感じたが、そのうえ、まさかあの人が訪ねてくるなんて…
今日の夜は雪が降るんじゃないかと本気で心配になった。
「……一体何なんですか」
「うるさいよ黙れ」
シーンと静まり返る部屋に、二人の声が響く。
目の前には、あの群れるのが大嫌いな雲雀さんがいて、さっきからずっと不機嫌にこちらを睨み続けていた。
……本当に何なんだよこの人!
「今日はやけに機嫌悪いですね」
「だからなんだっていうんだ」
「……別になんでもないですけど」
………ていうか。
機嫌が悪いならこんなところに来なけりゃ良かっただろ…
まったく、相変わらず何を考えているんだか分からない人だ。
「……ところで、具合はどうなんだい?」
「え…………」
「何その顔。ムカつくな」
「いや、あの雲雀さんでも人の心配をするんだ、と」
「咬み殺すよ」
「お断りです」
「…………」
にっこりと言葉を返すと、無言で睨み返してくる雲雀さん。
口では俺に勝てないと、よく分かっているからだ。
あー、なつかしいなあ、最後に雲雀さんと口喧嘩したのっていつだったっけ?
………………って、記憶喪失中なんだから覚えてるわけないか。
「柄悪……」
「うるさいな」
「ハイハイ、わかったからそのトンファーしまってくださいね。それにしても、なんで雲雀さんが俺のお見舞いに?」
「………僕だってこんなところ、本当は来たくなかったさ」
「……ならどうして」
「ゆりの頼みなんだから仕方ないだろ」
「ゆり?」
「…名前教えてもらってないのかい?橘ゆり。君の秘書だろ」
「え?あ、ああ……あいつか…」
雲雀さんをこうして使うなんて、ずいぶん恐いもの知らずなやつなんだな……
ていうか、あの雲雀さんが素直に人の言うことを聞くなんて、かなり珍しすぎる。
一体、橘って女は何者なんだ……?
まさか雲雀さんの恋人?
いや、確かこの間俺が目を覚ました夜、外で骸と抱き合っていたけれど、それを見るかぎりではあの秘書が雲雀さんの恋人、というわけでもなさそうだな…
じやあ…………………まさか三角関係?
……って、考えるよりも聞いた方が確実に早いか。
「橘ってやつは何者なんですか」
「は…………?」
「俺は本当に、信じてもいいんですか?あいつを」
「…………」
正直、よくわからない。
素性もわからない見ず知らずのやつを、素直に信じてもいいのか。
確かに、超直感は橘に対してなにも感じなかった。
……ということは、あいつが信じられる存在だってことを、頭では覚えていなくても感覚や体で覚えているということだ。
でも………いまいちよくわからなくて。
もっと、もっと情報がほしい。
「いいんじゃないの」
「…………え?」
「僕は、ゆりを今まで信じてきたよ。他の奴らだってそうだと思うけど?」
「………そ……ですか……」
信じても、いいのか。
俺はあいつを。
「ありがとう……ございます」
「………………ふん」
今すぐに、ってわけにはいかないけど。
背中を預けられる、というわけにもいかないけど。
でも………
少しずつ時間をかけて、なら、多分。
信じられる者
(雲雀さんにここまで言わせる奴だったら、大丈夫……だよな)
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