「ボス、ボスっ!しっかりしてくださいっ」

「……くっ、………っ」



なおも頭を抱える綱吉。
痛々しく、うめき声をあげる。
またどこか具合でも悪くなったのかな、なんて慌ててそれまで座っていた椅子から立ち上がった。


(は、早くなんとかしないと…!)

そう思ってベッドの近くにあるボタンの存在を思い出す。
ナースステーションに直接繋がる、あれだ。



「待ってくださいね、今すぐ誰かを……」

「………ま、て…!!」

「で、でもっ」

「………待て、って、言ってる、だろっ!!」



弱々しく、でもどこか力強い手に腕を掴まれる。
どうやら痛みは少しおさまったようで、綱吉ははあはあと激しく呼吸をしながらも勢いよくベッドに横たわった。
息遣いから、彼の辛さが痛いくらいに伝わってきて、思わず顔をしかめる。
私が代わってあげられたらどんなにいいか。
大好きな………ううん、心から愛してる人が、こんなに苦しんでいて。
まるで胸が締め付けられる思いだ。



「大…丈夫……ですか…?」



そう問うと、こくこくと力なさげに頭を縦に振った。



「少し……ほんの少し頭痛がしただけ、だ」

「でも……っ」

「うるさい、つべこべ言うな」

「う………あ、はい……すみません」



本当に、大丈夫なのだろうか。
あんなに辛そうにしているのに。
さっきと比べて、表情は大分楽そうになっているけれど、でもやっぱり……………心配でたまらない。
彼がまた倒れたらどうしよう、なんて不安に押し潰されそうになる。
早く元気になってほしい、それが私の願いだ。
できたら、記憶も元に戻ってほしいけど……ね。



「………………さっき」

「……え、?」

「………なんか映像が頭に入ってきた」



ぶっきらぼうに、私から顔を背けながら言い放つ。
映像って、なに……?
もしかして記憶が少しでも戻ったのかな?なんて少し期待してみた。
でも……いや、ありえないか……
こんなひょんなことで戻るはずがないよね…
よく、ドラマとかではこーゆーきっかけや、少しのショックで戻る、なんていう話をみるけれど。
実際は……どうなんだろう?
ああ、先生によく聞いておけばよかった。(そんなの今更だけど)



「なにか、思い出しましたか?」

「いや…………でも、なんとなく、なんとなくだけど前に、確かに任務中誰かを庇ってやったことが、あった気がする……」

「……!…そ、それって、」

「………別にそれがお前とはわからないぞ」

「は、はい!」



あまりの嬉しさに、心なしか顔がほころぶ。
少しでも、たとえそれがぼやけていたとしても、彼が思い出してくれたことが嬉しすぎて。(これってかなりの進歩じゃない?)
まるで暗闇の中に一筋の光を見つけた気分だ。
もしかして、もしかすると。
いつかは私のことも思い出してくれるんじゃないか、なんて淡い期待を抱いてみるのもいいかもしれない。
また、もしかしたら前みたいに「ゆり」「綱吉」なんて呼び合える日がくるかもしれない、よね?



「あ、でも、さっきの頭痛もしかして……」



いきなり思い出したことに、体が、脳が、ついていかなかったのでは、とつい不安になる。



「………あの、無理はしないでください、ね…」

「……………ああ、」



不思議だ。
昨日まではあんなに硬かった彼の態度が、心なしか少し、ほんの少しだけど柔らかくなっている気がする。(これって気のせいじゃないよね…?)
まあ、まだまだあの頃と比べたら硬いけど。

少しは…………私のこと、認めてもらえたのかなあ…





少しだけ、だけど

(ぼんやりでも思いだしたんだもん、これって進歩でしょう?)






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