あれから数分くらいたった頃。
彼はりんごを食べ終えた。
私が剥いたやつを残さずに全部食べてくれたことに、少しの嬉しさを覚える。
彼が倒れてから今までの短い時間の中で、少しくらいは距離が縮んだのかな、なんて思ったり。
でも、また私が綱吉の恋人に戻れるまで、一体どれくらいの歳月がかかるのだろう。
………きっと、きっと、それは果てしなく長いんだろうなあ…(気が遠くなるくらいに)



「……そういえば、」

「え、あ………なんでしょう?」

「最近のボンゴレは、どう?」

「え、えっと、ですね………」



なんて言えばいいんだろう、なんて言葉につまる。
なんたって、私たちは今までまともに会話というものをしてこなかったし、それに、彼と二人きりで話すことさえもこれが初めてなのだ。
今までは、必ず守護者たちがそばにいてくれたから。(気を遣ってくれてるらしい)
……だから安心して綱吉の見舞いに来れたけれど、でも今日はあいにく皆用事があって、私は一人でこの病室を訪れた。

今の彼の質問は、ボンゴレの最近の様子を教えてくれというもの。私は秘書という立場上、だいたいのマフィアの内情は把握しているつもりだ。
未だ、ボンゴレは衰えない。
むしろ日に日に勢力を増していっている気がする。(ボンゴレを敵に回したら明日はない、と言われるくらいにね)



「えと……こ、こちらは安心してくださっても大丈夫ですよ。最近は襲撃もあまり目立ちませんし………まあ物騒なのは前と変わりませんが」

「……………そう」

「あ、で、でも、油断は………決してできませんけど…」



だって、今のボンゴレにはあなたがいないのだから。
きっとそれをチャンスだと思い狙ってくる輩が多いはずだ。
無敵と謳われる10代目の不在とくれば、なおさら。
でも、彼がいなくなったくらいではボンゴレは揺るがない……はず。(だよね…?)
たくさんの優秀な仲間が、このファミリーには集まっているのだから。
雲雀さんやリボーン、それに隼人たちもいる。
……きっときっと、彼が復活するまで頑張ってくれるよ。



「…………まあいい、俺の不在はリボーンたちに任せてあるから大丈夫だろ」

「は、はい、もちろんです」

「ようするに、襲撃がくる前に俺が戻ればいい話だ」

「そ………そうですね」



って、それは無理があるんじゃないのですか。…なんて心の中でつっこんでみる。
前までは普通にタメ口だったけれど(恋人同士だったから)、でも今は駄目だ。
きちんと敬語で話さないと、その過去を覚えていない彼に違和感を与えてしまう。

早く私が前みたいな関係に戻るには―――まず、信用を取り戻さなくては―――と、つくづく思う。



「そういえば……」

「………ん」

「昔もこういうことがありましたよね、」

「………?」

「あ、す、すみませ…っ、前のことなんて話してもわからないのに、」



わけがわからない、とでも言いたそうな綱吉の表情に、ハッと我にかえる。
頭の中がごちゃごちゃして混乱していたせいで……余計なことを発言してしまった。
やばい、と慌てる。



「……………いい」

「………え、?」

「話せ、構わない」

「は、はいっ」



そして私は昔のことを話し出した。
前に、彼がこうして倒れたときのことを。
……確か1年前だっただろうか。(もうすでに恋人同士だった)



「前に、ボスが入院したことがあったんです」

「…ふーん」

「………それも、私のせいで……。私、前にボスと一緒に大事な任務についたことがあって、その時、失敗しちゃったんです」



全て敵は倒した、と勝手に安心して。
実はまだ息が残っていた奴がいたことに気付かなかったのだ。
それは気付けなかった私の不注意で、なのに、綱吉はそんな私を庇ってくれて。
それで………………私は、彼に怪我を負わせてしまったの。

ということを今の彼に話す。



「馬鹿だろお前……………………………ぅ、あ……っ!」

「え、ええ、ボス!?」

「……うるさ………っ、だま、れ……っ」



急に頭を抱えだした彼に、おろおろと慌ててパニックを起こす。

どうしよう、綱吉が……
誰か、誰か助けてっ……!!!





前触れもなく、突然

(どうしたらいいの、私は)






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