「お邪魔しまーす」
「…………またお前かよ…」
この病室に通い始めて、早一週間。
彼からの嫌味(…みたいなもの?)にも少しだけなれてきました。
……でも、未だに泣きそうになるときは沢山ある。
だって、綱吉は昔の面影がないくらいに冷たくなっているんだもの。
やっぱり、大好きな人に冷たくされるのって悲しすぎるよ…
だからつい、目の前が涙で滲んできそうになる。
……けれどそんなことで泣くくらいじゃ今の綱吉のそばにいるなんて無理だから、と精一杯明るくいようと努力しているのです。
「なんで来んの?」
「いや……一応秘書なわけですし」
「………」
「………」
「………」
ああ、またこの沈黙だ。
私が見舞いに来るといつもそう。
話題がない、といえばそうなのだけれど。
そして、この沈黙に耐えられなくて私はいつも病室にはあまり長くいない。
または花瓶の水を変えたり、洗濯したりと、忙しく動いて気を紛らわせるか。
………よく考えてみれば綱吉は記憶を失ってから私の名前を…ううん、名字さえも呼んでいないかもしれない。
この間、名前を聞かれたからきちんと自己紹介したはずなのに……なんで呼んでくれないのだろう、なんて思い詰めてしまう。
いやいや、駄目だ私!
へこたれるな!
きっといつか、仲良くなれるはず、だから。
「あっ、あの!」
「………ん」
「えっと、その…」
「………だから、なに?」
「り、りんご……あるんで、食べませんか?」
勇気を出して、お見舞いにと持ってきたりんごを手にとってみる。
なにか、どんなささいな事でもいいから会話になるような事を探したかった。
「……まあ、食べてやってもいいけど」
「あ、はい!」
そして、果物ナイフを使って皮を剥きはじめる。
綱吉の台詞が妙に上から目線なことが気になった。
うーん、まあボスなんだから当たり前なんだろうけど。
私は今の綱吉の中ではただの部下なのだから。
「どうぞ」
「……ん、うまい」
「ならよかったです」
「……お前さ、なんでこんなに世話してくれんの?」
「えっ、えっと…」
そ、そんなこと言われても。
私はなんて答えればいいの?
あなたは一体、どういう答えを求めているの…?
でも、今の私に言えることは。
「私はボスの秘書ですから」
ただ一つだけ。
あなたと私の現在
(もう、私たちはそんな関係でしかない)
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