悪かった、と謝った時のあいつの顔は凄く幸せそうだった。
さっきまでずっと俺を見て怯えていたのに、それが嘘のように。
…………そんなに、俺はあの女に恐怖を植え付けたのか?
昨日言った、あの一言で?
出てけ、と言い放ったあれだけで?
あれは、知らない奴がいたから警戒しただけで……
今も、こいつのことはあまり信用してないけれど。
「お前………俺の秘書なんだってな」
そう話し出す。
それは、リボーンから知らされた事だった。
まさか、とは思ったけれど…リボーンが妙に真剣な顔をして言うものだから、信じざるをえなくなった。
今、目の前にいるこの見るからに弱そうな細身の女が、ボンゴレファミリーのボスである俺の直属の秘書だなんて。
正直、そんなことあるわけないと思った。
…………以前の俺はどんな気持ちでわざわざこいつを選んだんだ……?
「そ、そうですね…一応、そういうことになります」
「…………隼人、本当にこいつが?」
「はい十代目!」
「…………ふーん」
どうやら、この女は守護者たちと相当仲がいいらしい。
…これもリボーンから聞いた話だけど。
守護者たちと、ということはもしかしたら俺とも……?と思ったけれどその疑問についてはノーコメントだった。
なんなんだよリボーンは…意味深すぎる。
俺は、こいつにスケジュールなどを任せてもいいのか?
いや、任せられるのか…?
……いずれにせよ、まだ情報が足りない。
なんせ、俺は3年間もの記憶を失っているのだから。
これから先、何年かけてでも、絶対にこのぽっかり開いた穴を埋め直さなくてはならないんだ。
「あ、もうこんな時間……」
しばらく考え事をしていると、ふと腕時計を見て、ぽつりと言葉をもらしたあいつ。
「じゃあ、また明日来ますね」
「………」
「そ、そんな嫌そうな顔しなくても……」
「……別に、してない」
ああ、また泣きそうな顔をする。
なんだか俺が悪者みたいじゃん…
本当になんなんだよ、こいつ!
「そんなネガティブになるなって、ゆり!ツナももっと笑えよ!なっ?」
笑えって……どこをどう笑えと?
「じゃ、また来るっス!」
「またなー、ツナ!」
「……失礼しまし、た」
パタン、閉じられたドアの奥に消えていく3人。
そんななか俺は、帰るときのあの女の淋しそうな表情が、なぜか気にかかった。
なんで、あんな顔…………
消えない不信と曇る表情
(つーか……あいつの名前聞くの忘れた)
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