夢を見ていたような気がした。 淡く、優しげな雰囲気を持った青色は、ここから見える景色とはまるで違う。 あんなにやさしげな青は、ずっと見ていない。 彼の夢も、久々な気がする。 海の底奥深くに潜ってだいぶたつ。 だからあんな夢のようなものを見てしまったんだろうか。 今はもう、海の底で眠っているであろう彼の夢を。 あぁ、なんてばかばかしい。 そんなことを考えている暇なんてないのに。 彼はもういないのに。 「」 そういえば、夢の中で彼は何かを言っていた。 なんといっていたのだろうか。 「」 優しげに笑う顔しか、思い出せない。 なにか、大切なことを言っていた気がしたのだけれど……。 まぁ、いいか。 今から私の、そして私がこの目にとらえた彼らに起こることには、関係のないことなのだろうから。 引っかかりはするけれど、忘れよう。 今から私が向かうのは、戦場なのだから。 あんなやさしげな笑顔の一切ない戦場なのだから。 私は沈んだ彼に代わりとして、潜ることを選んだのだから。 ザザッと音がして、私の思考は一時的に遮断された。 それは海中深く潜った艦の無線機へ、海上にいる戦友からメッセージ。 「馨、用意はいいか?もうすぐ開戦だが……」 「……お気になさらず、忍さん。準備は万端です」 「反応が遅れたようだが……?」 「考え事ですよ。すでに覚醒していますので、作戦実行に支障はありません」 思考回路の突然の中断により、反応が遅れたことを見抜かれてしまった。 開戦前に白昼夢を見ていたなんて、忍さんにばれたら怒られてしまう。 なんとか、ごまかせたらいいのだけれど。 「まぁいい。お前は要だしっかりしろよ」 ごまかせきれた気は全くしないけれど、開戦前に叱る気はないらしい。 「了解です」 気合を入れなおして答えれば、フッと鼻で笑う声が聞こえてきた。 「では、武運を祈る。海上でまた会おう」 ブッツと音がして、無線が切れた。 しかし、そんなことに気づくことができないくらい、私の脳はある映像でいっぱいになっていた。 淡く、優しげな雰囲気を持った青色。 そんな空をバックに、彼は笑ってこう言ったのだと。 思い出したのだ。 海の中へと行こうとする彼が。 海上にいる私に対していった言葉を。 「海上でまた会おう」 白昼夢の中の約束 (今はもう、かなわない約束)(でも、私は守ろう)(海の底へ沈んだあなたの分まで) 潜水艦の少女と少年の話 企画:色糸 作者:花狩十八 ← top |