「愛しい。愛しい……愛しいねぇ?」
「うるさいぞ馬鹿女。撃たれたいのか?」

現在目の前に広がっている光景。
赤髪美人の頭に、鴉が銃を突きつけている。そして奥の席ではローゼルが半液体のコーヒーを飲んでいた。

「あら?アタシを撃つの?腰抜け鴉」
「あぁそのつもりだ。能無し女」
「やってみなさいよ」
「本気だからな」

安酒を煽り挑発する美女、ティアナ。引き金に指をかける鴉。奥に座るローゼルは黙ったまま。どうやら、常識人は俺だけらしかった。

「喧嘩をするなら他所でやってくれよ。片付けをするのは誰だと思ってるんだ」
「アンタよ。バッカじゃないの?」

アハハと笑い声をあげるティアナ。

「何時も以上にウザイ酔い方だな」
「黙りなさいよ。唐揚げにするわよ?」

手にしていた銃をしまう鴉を睨み付けるティアナ。頭が痛くなってきた。

「愛してる。愛してる。愛してる。愛しいという感情ってなんなのかしらねぇ」

鼻で笑うティアナは、ハニートラップ。ようは愛していると囁いた人間を騙して殺す人間。愛という感情について騒ぐことは、珍しくない。

「愛だの恋だの。アタシには計り知れないわぁ」
「計り知れない訳ではない。認めたくないだけだ」

悪酔いするティアナに口をはさんだのは、沈黙を貫いていたローゼルだった。

「私論だが、愛しいと哀しいという感情は同じものだ。人は、愛しいから哀しいと思う。愛しければ愛しいと思うほど、その人間の死は哀しいものだ。その証拠に愛しいと書いて<カナシイ>と読むらしい」

彼はテーブルのスタンドから取った紙ナプキンに記し、見せた

愛しい=カナシイ

と……

「お前は人間の死を哀しむ人間だ。だから既に愛を理解していると言えないか?少なくともなんの疑問も抱かない鴉よりは、な」


情熱の赤
(……騙されといてあげるわ)(そうしろよ)

企画:月魚
作者:聖久蘭





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