Panic Days! | ナノ


▼ 藤崎佳奈の災難


果たして、タイミングが良かったのか、悪かったのか。
助かったのか、ただ延期されただけなのか。


「幸村くんには悪いことをしてしまいましたね。ですが、あのタイミングで予鈴が鳴るとは思っていませんでした」
「ね。…あ、初めまして紳士。私3−Dの藤崎佳奈」
「初めまして、藤崎さん。先程は仁王くんが悪戯をしたようで申し訳ありませんでした。私は柳生比呂士です」


隣を歩く紳士を見上げて会釈程度に頭を下げた。これで本物の紳士と初めての御対面。昼休みのアレは仁王が変装してた偽柳生だったらしいし。うわあやっぱり紳士って呼ばれてるだけあって礼儀正しい。私が会釈程度に頭を下げたら、柳生も会釈程度に頭を下げて名乗ってくれた。いやいや私は皆のこと知ってるからね。

それはそうと、…………なんで私、テニス部の面子と教室に戻ってんの?ねえ何で?何でだ柳いいい!!そりゃね、ゆっきーが私に「頼みがあるんだ」とかにっこり微笑んで頼みごとをしようとパイプ椅子引っ張ったのは良いよ。いや良くないけど。でもその瞬間、タイミング良くチャイムが鳴るなんて何かの仕掛けとしか思えないよね。五時間目が始まるよーの予鈴が鳴るなんて何らかの陰謀とか策略とか神の助けかと思っちゃうよね。つか思ったわ。
幸村自信はイラっと来てたみたいで、チャイムなんか関係なしにそのまま話を始めようとして居た。けどそれを全力で阻止したのが真田、柳、柳生だ。「精市、これで成績が落ちてしまっては所詮はと言われるぞ」とか「彼女に話があるのは分かりますが、ですが部活動以外では私達の本分は勉強です」とかもっともらしいことを言ってた。

いやあ。真面目だ。
寝こける私に対して真面目だ。

それで結局、渋々といった感じだけど折れた幸村は部室で部員を解散させた。幸村は何だか先生に用があるとかで別になったけれど、でも同じ二年生ばかりのこいつらとは向かう場所が一緒なわけだ(ひとりだけ一年坊主だけど)。しょうがなくというか、渋々というか。自然と道は同じだから一緒に教室までの道のりを行くというわけで。
最悪なことにキャピキャピ☆(死語)の女の子たちに全力で睨まれた。なんだイケメン軍団この野郎おまえら空気読め。私に突き刺さる視線の憎悪を読め。イケメンだからって何でも許されると思うなよ!……許しちゃう自分が憎いけど!!心の中で自分の性格をうらめしく思っていると後ろから柳がぬめっと現れた。なんか楽しそうだ、柳。


「藤崎、初めて部室に入った感想はどうだ?」
「いやどうと訊かれても。とりあえず今は話しかけないでほしいデスネ。フフフ」
「やっぱお前変な奴!」
「一般的な女子高生に変な奴言うなガム」
「ガム言うなよい!俺は丸井ブン太っつーんだよ」
「余裕で知ってる」
「うわお前うぜえ。女のくせしてでかいくせに」
「女のくせにってそれ差別だよ。私だって好きで大きくなった訳じゃねーよ」


丸井ってなんか相手すんのめんどいな。人のこと変変連呼しやがって!だから適当にあしらってたら、丸井は拗ねてジャッカルに八つ当たりに行った。てめっ心のイケメンに何たることを。


「つーか幸村部長、なんの頼みだったんでしょーね」
「さあな。幸村は気分屋なところがあるからのう。誰も知らんぜよ」
「その幸村はどこに行ったのだ?」
「職員室に行くと言っていただろう、弦一郎。それよりも辞書を貸す予定だったが、無事藤崎に借りたか?」
「む、蓮二、なぜそれを知っている」
「参謀お得意の確率じゃよ」
「それよりも仁王くん、藤崎さんに謝罪をすべきではないですか?」
「何だよい仁王、また柳生に変装したのか?」
「仁王が変装するのはいつものことだろ」


知ってますかイケメン軍団の皆さん。
校舎で滅多に揃わないあなた達がこうして一緒に歩いてるだけで、女の子が今にも失神しそうなこと。キャピキャピ☆なうっとりした目でガン見してること。イケメン軍団の中にひっそりいる私に凄まじい殺気の目が向けられていること。知ってますか。

いや無理だな絶対知らないだろうな。と頭を抱えて溜息を吐きだした途端、後ろからずしっと重みが掛かって一度私の足は止まってしまう。それによりイケメン軍団全員の足が止まって全員私を見下ろした、り見上げたり。つか丸井って私より背ちっちゃいんだ。私と切原は同じくらいの身長だし……いや、私がでかいだけって知ってる。首に回る腕に誰だよ、と面倒な顔をして振り向くと仁王の顔が至近距離にあった。
うわ、ちょ、お前近いわ。……つか、え?お嬢さんたち?女の子たち?なんでフリーズしちゃってんのかなー……


「なあ藤崎、俺にもアドレス教えろ」
「…え?は?こ、この状況見て言ってんの?女の子たち完全にフリーズだよ?」
「そんなん知らん」
「いや知ってろよ」
「俺も!俺も知りたいっス!」
「あんたたちに教える義理はない!関係もない!」
「果たしてそんなこと本当に言えるのかのう……藤崎、俺達はあーんなことまでした仲じゃろう、恥ずかしがらんでもええんじゃぞ?」
「「「「きゃああああ!!!!」」」」
ぎゃああああああ!!!!


なにを言ってるんだこいつはああああ!
私が仁王となにをしたって?
なにもしてないわ!!

後ろから首に巻き付いた仁王はにやりと、それはそれは嫌な笑顔で笑ってさらりとありもしない事実をぶちまけた。聞こえていた、フリーズしていた女の子たちは途端に悲鳴に近い叫び声を上げ、私は完全に悲鳴を上げた。バタバタと手足を振りまわして仁王を引き剥がし私は柳生の後ろに隠れた。柳生のワイシャツを掴んで仁王をこっそり窺い見るとヤツはこの状況にくつくつと楽しそうに笑っている。切原も切原、丸井も丸井で腹を抱えて笑ってるし、他のテニス部員は呆れ返ったり呆れ笑ったりしていた。
勝手にシャツを掴んで隠れさせて貰っている柳生だけは心なしか怒っているように見える。勝手に隠れていることになにも言わず、柳生は眼鏡のブリッジを上げて不敵に笑う仁王に向かって開口した。


「仁王くん!藤崎さんになにをしたかは分かりませんが、ちゃんと責任はとるんですよ!」
「違うからああああ!!仁王とはなにも無いから!!お願い紳士信じてえええ!」


だめだこの紳士終わった、最後の砦は崩れた。


「おい。茶番はいい加減にして教室に戻るぞ。あと23秒で本鈴が鳴る」


意外なところから助け船が!
助けてくれた柳の言葉で、依然悲鳴を上げる女の子たちを放置してイケメン軍団はそれぞれの教室に戻っていく。ちょ……私はどうすりゃいいの。一斉に女の子たちに標的にされた私は。変な噂が立ちそうな私は一体どうすりゃ良いんだ!!

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