Panic Days! | ナノ


▼ 柳の忠告


「やれば出来ると自信のある藤崎にひとつ忠告をしてやろう。──精市がお前に興味を持った」


……それはどういうことだ参謀。
訊き返すまでにたっぷり30秒はかかった。ハニーが来るまでうんたらかんたら、そうしてお前はうんたらかんたら。そんな下らない他愛ない話をしていた次の瞬間にされた『忠告』はいまの私にリカイフノウの領域だった。

だって柳の言う精市ってあれでしょ。幸村でしょ。幸村がなんで私に興味を持った?というかなんで私の存在を知ってる?あれかもしかしてあれか。ジャッコーか。苦労人ジャッコーが原因か。柳はどんな情報ルートあるか知らないけどいろんなところから情報収集しそうだけど、まさか幸村が私を知ってるなんてジャッコーがばらしたとしか考えられない。……あいつあとで苛めてやるメールで苛めてやる。


「ジャッカルを恨むな。成り行きだ」
「どんな成り行きだよ」
「精市がお前に興味を持ったのがどういうことだ、とお前は言ったが、その言葉の通りだ。近いうちに精市がお前と接触するだろう」
「なぜ!というかスルーすんな!」


なぜ私に興味を持ったんだ幸村。幸村は私のハンカチを拾ったことなんか微塵も覚えてないと思ったのに、ジャッカルの話を聞いただけで興味持つって、私ジャッカルになにもしてないよねなにも話してないよね。なにもしてないしなにも話してない筈なのにジャッカルはどこをどうやって話を盛ったんだ、盛らなきゃ幸村は絶対に興味持たないよ。

通学路、柳の隣でそんなことをぶつぶつ呟きながら歩く。幸村に興味を持たれていやだと言うわけではないけれど決して嬉しくもない。そりゃ遠くで見たり偶然話したりする分には凄い嬉しいけど、こうして実際に興味をもたれるとものすごく逃げたい衝動に駆られる。
隣で柳がなにか話していた気がしたけれど、どうやって幸村と会わないようにするかとか会ったらどうやって逃げるかとか考えていたから全く耳に入ってこなかった。──肩を落として歩いている私の先に見える、あの、頭は…………きれいな丸い頭のあれは……!!


「ジャッカル貴様ああああ!」
「うわっ?!なんだ?!」
「秘密って言ったじゃん!!」


先に見えたのはジャッカルだった。褐色肌で背が高くてあんなきれいな坊主頭はジャッカルしかいない。というかジャッカルしか知らない。極めつけはテニス部皆が持ってるラケットバックが決め手だ。

朝にも関わらず私はダッシュ!朝っぱらから全力疾走。朝に弱いやつをなめんなよ。いざとなればダッシュくらいできんだぜ。
柳を放置して叫びながらジャッカルに背中からタックルした。叫びながら走ってるとやっぱり変な眼で見られたけど、まあ気にすんな。ジャッカルに鉄槌を下すのが先決だ。


「悪い、藤崎。悪気はねえ」
「悪気があろうとなかろうと鉄槌を下すと私は決めた」
「だから悪かったって!」
「言い訳はきかん。イケメン軍団になにを話した、さあ吐け!」
「なにも話してねえよ!」
「うそを吐くなうそを!なんでイケメン軍団部長が私に興味を持つんださあ吐け!」


タックルをかましたジャッカルはそのまま道路に尻餅をついて怒り心頭の私を見上げていた。私はと言えばビシッと指を差して偉そうにジャッカルの前に立っている。しまいにはジャッカルの襟を掴んで制服が乱れるのも構わず前後に揺らしてやった。さあ吐け貴様あああ!

「お、おい」と前後に揺らされて喋れないジャッカルを見兼ねてか、悠々と歩いてきた柳はこの状況の傍観が楽しいのか笑いながら私の肩に手を置いた。


「落ち着け、藤崎。本当にジャッカルは何も言っていない」
「じゃあなんで…!」
「精市が純粋な興味を持っただけだ」


お前がテニス部のほとんどと面識があると知ってな。

……は。え、はい?あ、ああそりゃ面識ありますよというか面識あっちゃいましたね何だか不思議な流れで紳士以外と顔合わせちゃいましたね、はい。それが、幸村に知れたと。いや知れるのは別に悪いことじゃないけどさほら何となくアレなわけだ。アレだ。アレなわけだ。

私の肩にぽんと手を置いた柳の手がなんだかリアルすぎて、受け入れがたかった。前後に揺らしていたジャッカルの襟から手を離す。苦しそうに咳をしたジャッカルが咳が治まったあとまた謝られたから余計にリアルさが増した。立ち上がったのは良いけどなんかフラッと来た。
紅ちゃんのとこに逃げたいハニーに会いたい。


「テニス部のファンと言うから喜ぶと思っていたが、喜ばないのか。精市が興味を持っているんだぞ?」
「ああうん。嬉しいよね普通に。イケメン軍団をまとめ上げる人から注目されてんだからもしかしたら話せるかもとは期待しちゃうよね。でも私は「遠くから見てるだけでいい」……ハモんないでよ」
「フッ、すまんな」


きました参謀の悪いと思ってない謝罪。

そうだよ本当に私は遠くから見て目の保養できればいいんだよ。
それなのに短期間でイケメン軍団達にハンカチ拾ってもらったり、アリバイ立証人にされたり、衝突したり、安眠妨害されたり、ノート配り手伝ってもらったり、最もな態度取られたり、メル友になったり、しまいには注目されたりして。いやいやこの幸福な瞬間達をミーハーなお嬢さんたちにお裾わけしたい位ですわ。


「あー……藤崎」
「なにジャッコー」
「(ジャッコー?)柳と真剣な話してるとこ悪ぃんだけど、お前、注目されてるぜ」
「…………………」


ギギギと効果音がつきそうなほどに、首が軋んだ。
無言で見まわす。

…………。


「アデュー!!」


ごめんね紳士台詞借りちゃった!
陸上選手張りにダッシュして目前の校門へ校舎へ逃げた。
だって男子も女子も見てるんだぜ。こりゃ逃げるに限る。






テニス部と話してた女。
ミーハーファンに目を付けられたのは言うまでもない。


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