Panic Days! | ナノ


▼ 保健室から戻ってきたその後


「ジャッカル先輩、保健室から戻ってきたあとから、なんか妙に楽しそうっスよ?」


始まりは、赤也のこの一言だった。自分で自覚はしていなかったが、赤也にそう言われたということはそうなのかもしれない。それに賛同するようにブン太も頷き、俺を向いた柳と仁王は興味津々にしている。

楽しそう…か?……まあ、原因っつったら、アレしかないだろうな。


「ああ、面白い奴とメールを始めてな」


ジャージから制服に着替えながら楽しいと言われる原因を言うと、俺と同じく着替えをしていた赤也は興味が削がれたように「ふーん」とだけ返事を返して、ブン太もブン太で「それだけかよ」と肩を落としただけだった。でも更に興味を持ったのが、仁王と柳だった。着替えながら近寄る仁王は「だれじゃ?」としつこく聞き、柳はその答えが待っているかのようにただ俺を見る。幸村は多少の興味があるらしく、話には加わってないが興味深そうな目を向けて見てくる。

真田がここにいなくて良かったと思った。こんな話を真田の前でしたら、どんな目にあうか。


「同学年のやつだよ」
「ほう。男子か?女子か?」
「女子」
「「女子ぃ?!」」
「うるさいよ、赤也、ブン太」
「す、すいませんっス!でもジャッカル先輩、女子ってヤバいッスよ」
「どうしたんだよいジャッカル。変なもんでも食ったか?」


女子の単語が出ると、だれよりも驚いた赤也とブン太が身を乗り出した。静かに叱った幸村は笑ってるが、さらに興味が注がれたらしい。


「別に変な女子じゃねーよ。ただズレてるだけだって」
「ズレてるところが変じゃねえか、なあ赤也」
「はいっス丸井先輩」
「あー…言葉で説明すんのは難しいな。お前らも会えば分かる」
「ちなみに、どういうふうに変なんですか?」


ようやく話に参戦した柳生は、眼鏡のブリッジを上げた。それすらも言葉にするのが難しくて、変だと思ったメールを見せることにした。さっきアドレスを交換してからすぐに届いていたメール開き、柳生に見せるとその横から赤也とブン太も覗く。
そのメールが来たのはもう1時間も前だ。多分俺がすぐに部活に戻ってから送ったんだろ。


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From.藤崎
Sub.藤崎佳奈でーす
───────────────

急にメル友とかごめんね。
でもジャッカルの心がイケメンす
ぎて(笑)あ、そうそう愚痴とかい
つでも訊くよ。苦労人っぽいし。


そういえば後輩くんとジャッカル
をフルボッコにした1年坊主なん
か潰してやれ。ギッタメッタにし
てやれ。再起不能にしてやれ。

じゃ。この辺で。
部活がんばってねー


-END-
───────────────


端的なことばかり書かれてるそのメールを見た3人は、一瞬にして目を瞠った。そりゃ俺だってこのメールを読んだ時は目を瞠った。そんですぐ笑った。
だってテニス部ファンのくせしてテニス部を潰せとか言うんだぜ。しかもその1年生が赤也だと知らずに言うから余計に面白くて。普通テニス部ファンならあそこまで怪我を負わせた1年が赤也だってのはすぐに気付くと思ったんだけどな。この分だと気付いてないらしい。

俺と同じように腹を抱えて笑い始めたブン太と赤也。自分のこと言われてるってのに赤也は腹抱えて笑ってるしな。携帯を渡した柳生も楽しそうに笑っていた。その様子をただ見ていただけの仁王が柳生から携帯を奪って、その横から柳と幸村も覗く。そんで──笑った。赤也とブン太ほどではないけど、でも声を上げて笑ってる。


「な、変なやつだろ?」
「たしかにのう。じゃが、藤崎はそう言うやつじゃ」
「藤崎とメールとは面白い」
「なっ、仁王、柳も藤崎のこと知ってんのか?」
「俺は図書室で」
「俺が最初に会ったのは赤也と一緒のときだった」
「え?あのひと藤崎って言うんスか?人に失礼な先輩」


…マジかよ。
赤也まで知ってんのか、藤崎のこと。


「ブン太と柳生は知らねえのか?」
「女子なんか知らねー」
「私も、その方は存じ上げませんね」


首を横に振るブン太と柳生を見て、携帯を覗いていた幸村に目を移した。


「幸村も知ってるとか、ねえよな?」
「さあ、俺は知らないな。こんな面白い子、見たら忘れないけど」
「幸村部長、アレっすよ!」


首を傾げて知らないと幸村は言ったが、ようやく笑いを収めた赤也が揶揄するように幸村に思い出させようとする。アレって…やっぱり会ったことあんのか?


「ほら、ハンカチを拾った女!最初に話した時どっかで見た顔だなーって思ってたんスけど、そういえば幸村部長を呼びに行ったときにハンカチを渡してた女の顔思い出して」
「ああ…あの子。なら顔だけは知ってるよ」


どういう子か知らないけど、と付け足した幸村。
……幸村も知ってんのか。藤崎、お前すごいな。


「すごいな、藤崎…」

「本人は、ここで自分の話がされているとは思っていないだろうな」


ノートに何かを書きこんでいた柳が笑って、俺はたしかにと頷いた。
とりあえず、藤崎を知ってんのは柳生とブン太以外か。真田はどうか分かんねえしな。…そういえばと1時間前にきたメールにまだ返信していないことを思い出して、来たメールに関係ない内容を返信することにした。






あ。ジャッカルから返信。
『お前、地味にすごいな。なんでだ?』……『知るか』
意味が分からないから一言で返信しておいた。


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