蔵馬さんの薬のおかげで1日で風邪は治り
病み上がり特有のだるさもなく元気に次の日、出勤した。

「おはよう。治って良かったよ」

出勤して一番に南野さんが話しかけてきた。
まあ隣のデスクだから仕方ないんだけどね。

「南野さんのおかげでもうすっかり。
ありがとうございます。あんな特技があったんですね」

「と、特技というか…
それが俺の能力なんですよ」

「能力…?………ああ」

狐南野さんの話か。

「さっそく手伝ってほしい仕事があるんですよ」

私のデスクに、山となった書類がどんっと置かれる。

南野さんはにこやかに

「この書類を俺と第三会議室まで運びましょう。
俺も持ちますから大丈夫ですよ」

そう言いながら書類を持つけど、私が持つ量の方が明らかに多いんですけど。

しかし南野さんは気にせずすでに運び始めている。

覚えてろ女男上司。
昨日看病してくれたから良い人だなって思ってたのにとんだ思わせぶりだよ。詐欺だ詐欺。

内心でブツブツ文句を言いながら私は書類を持って運び始めた。

廊下に出て、前を行く南野さんを追いかけるように急ぎ足で歩いていると

「あ」

なにもない所で足がつまずき、書類をバサバサと落としながら前に転けた。

「いたた…」

「なにしてるんですか」

振り返った南野さんが呆れたようにため息をついている。

そんな態度しなくても…心で呟きながら私は書類をかき集めだした。

その時

「大丈夫ですか?」

一緒に書類を集めだしてくれたのは、見知らない若い男性。

はっきり言って、ハンサムだ。

南野さんは女性のような綺麗な顔立ちだが
その人は本当に男らしいハンサムだった。

ほどよい体つきや優しい笑顔も、かっこいい。

ポー…と見とれる私に構わず男性は書類をさっさと集め、おまけに私の手を握って立たせてくれると

「気をつけて下さいね」

私に書類を渡してくれた。

「あ…ありがとうございます…」

「…では」

去っていく男性。

後ろからその男性を見送る私。

…決めた。社内恋愛の相手は彼にしよう。

そう思ってルンルン気分で待っている南野さんの元へ行くと
彼は何故か怖い顔で男性が去って行った方向を睨んでいた。

「…南野さん?」

「…行きましょう」

彼はそれだけ言って歩き始める。

特に気にせず私も歩きだした。

その時、私は幼なじみを見かけて捕まえる。

「聞いて。私、好きな人が出来たの。
この書類を落とした時、拾ってくれた人なんだっ」

















今日1日南野さんは機嫌が悪かった。
朝はなんてことなかったのになんでだろう。

ぼんやりと考えながら帰る支度をする私。

しかし、中断せざるを得ないことが起きた。

「今から希紗は俺と残業ですよ」

「え!?」

隣のデスクに座ってパソコンとにらみ合っていた南野さんがそう言ってきた。

「それも二人きりです。
頑張りましょうね」

「…………」

深く深く、私はため息をついた。

「(なんだか最近…南野さんと二人だけの残業が多いなぁ)」

でも残業が終わったら南野さんは必ずと言って良いほどレストランに連れて行ってくれて奢ってくれる。

「希紗」

「はい?」

「朝会った男に惚れたんですか?」

いきなりなにを聞いてくるんだろう。でも……

「かっこいいですよね。
あんなにかっこよくて紳士な人初めてです」

「…………」

「やっぱり女の子に人気があるんですかねぇ…
南野さんは大人気ですよね。毎日大変そうです」

「君は俺をどう思う?」

「は?」


荒ぶる恋愛事情
「(いきなりなんなんだこの上司)」
「(渡すもんか。絶対に)」




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