それから数日後、私は風邪をひいた。
「ん〜…」
意味もなく唸ってみるがキツイのは当たり前だが変わらない。
携帯で勤め先の上司に有給をとって休むと伝えたから、今頃南野さんにも伝わっているだろう。
今日は彼の姑小言を聞かなくてすむんだ。わーいラッキー。
「………キツい…」
熱は40度近くあった。
キツくて病院に行く気も起きない。
その上寒気のせいでガタガタと体が震える。
「…水飲みたいなぁ…」
でも取りに行く気力もないし…
仕方なく私はそのまま、眠りついた。
それからしばらく眠って、体の違和感に目を覚ます。
だがその前に驚くべきなのは目の前の人物だ。
「目が覚めましたか?」
至って普通の表情で本を読んでいるのは、指導員である上司の南野さん。
「南野さん…!?」
「2人だけの時は蔵馬で構いませんよ」
「…えーっと蔵馬さん。
どうやって家に侵入したんです?」
「俺だからです」
「意味が分かりません。
だいたい仕事はどうしたんですか」
「俺も有給を取りました。
今日は1日付き合いますよ」
結構デス。
あああ、言ってみたい…
「その変わり、1日で治してもらいます」
「え。鬼ですか。
私…キツくて病院も行けてないんですが」
「俺が作った薬草の薬さえ飲めば風邪ぐらいすぐ治ります。
ちなみに貴女が眠っている間に一度飲ませました」
「いつの間に。というかそれでなんとなく体が軽かったんですね」
「副作用で眠気がくると思うからゆっくり寝て下さい」
蔵馬さんはそう言ってまた本を読み始めた。
そんな蔵馬さんをじっと見ていると彼の予告通りウトウトと眠くなってきた。
ぼんやりとしてくる頭と目。
蔵馬さんは読み終わったのか本を閉じて私の本棚にしまう。
…勝手に取ってたのか、別にいいけど。
「……これは…?」
眠たい目を無理やり動かして蔵馬さんをみる。
彼のが手に持って凝視しているのは数枚の紙だった。
「昨日…描いたものです…」
「…絵が好きなんですか?」
「アナログが苦手なんでもっぱらペンタブを使ったデジタルですけど…」
「でもこれ、まだ着色はしてませんが完成度高いですよ?」
「着色だけデジタルなんです。
…本当は私、イラストレーターになりたくてそういう大学に入ったんですが…」
「そういえば…卒業した大学はそうでしたね。
イラスト専科だったんですか」
「授業を受けているうちに、絵を描いていくうちに…自信がどんどんなくなってしまって……
それで諦めたんです…」
「……」
「でも絵は好きだから…
趣味で…ずっ…と……」
眠気に負け、ついに私は眠ってしまった。
だけどまだ眠りの浅い時に蔵馬さんのこんな言葉が耳に入ったのは覚えている。
「…いつも厳しくしてすみません」
ああなんだ。自覚あったんだ。
私…別にいじめられてるわけじゃなかったんだね。
なんとなく安心して私は本格的に眠った。
上司の本心と部下の心境
「(てゆーか蔵馬さん。
どうやって私に薬のませたんだろ…?)」
「(次の薬、口移しじゃ怒られるかな?)」
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