「どうだ?見つかったか?」

「いや、まだ見つかっていない」

「くそー!
一体誰が 希紗さんを攫いやがったんだ! 」

幽助、蔵馬、桑原は三人で希紗の行方を探していた。

飛影は「俺には関係ない」とスッパリ言って結局来なかった。

朝から捜し始めてもう夕方。

手掛かりはまったくの無しだった。

「こういう時、飛影の邪眼があればよー!」

「彼は仕方ありませんよ桑原くん。
確かに彼と彼女の接点は無いに等しい。
だから、関係ないさ」

「でもよーちょっとぐらい手伝ってくれてもバチは当たらないぜ」

「チッまだ見つけてなかったのか」

頭上から聞きなれた声が聞こえ、見上げるより早くそれは降りてきた。

その人物は黒い服で身を包んだ妖怪、飛影だった。

彼は目だけ三人を振り返ると

「気が変わった。さっさと終わらせるぞ」

邪眼を覆っていた布を外す飛影に蔵馬は目を丸くしながら問う。

「飛影、一体どうしたんですか?
気まぐれなのはいつものことですがこの件に関しては珍しいですよ」

「その女を連れ去った奴が魔界のリーダーを暗殺した奴なら興味がある。それだけだ」

「…………」

本当にそれだけだろうかと目で飛影を探る蔵馬。

その時桑原が嬉しそうにこう言った。

「なんにせよ助かったぜ!
浦飯から連絡来た時ついうっかり雪菜さんに希紗さんが攫われたこと話しちまったからな!
随分心配してて可哀相なくらいだったぜ」

「……そういうことですか、飛影」

「さ、さっさと終わらせるぞ!」

どこか焦った様子の飛影に納得した顔の蔵馬。
その後ろでは幽助が爆笑している。

ひとりだけ現状を理解出来てない桑原を放っておいて
邪眼による捜索が始まった。
































邪眼とは本当に便利なものだ。

あっさり彼女の居場所が割れその場所に4人は向かっていた。

しかし以外にも隣町という遠い場所に彼女がいた為
移動により日は落ちて夜になってしまった。

幽助は真っ暗な空を見上げながら

「もう日が落ちちまったな」

「飛影がいなかったら今日中に見つからなかったかもしれねぇな」

「そうですね。
早く彼女を助け……」

裏路地に続く細い脇道。

その影に隠れて希紗がひっそりと立っているのを蔵馬は偶然見つけた。

「希紗!!」

突然蔵馬がそう叫んで走りだし、驚いた幽助達も慌ててその後を追う。

希紗は光のない目で迫る蔵馬を目に捉えると
スッと溶けるように裏路地への闇に隠れた。

「待てっ希紗!」

「蔵馬!希紗がいたのか?!」

「ああっあの裏路地に入っていった!
様子がおかしい…まるで誘ってるみたいだ」

希紗が消えて行った裏路地の入口に立つ。

4人は顔を見合うと警戒しながらゆっくりとその奥へと進んでいく。

二人程しか肩を並べて歩けない程の狭さ。

蔵馬と幽助、後ろに桑原と飛影と並んで歩く。

裏路地は打ち捨てられた資源ゴミや粗大ゴミ
そしていかにも怪しげな店の裏口らしきものが一件、二件ある程度で
路地を歩く人の気配はまったくない。

どのくらい進んだか、もう表通りのネオンが届かない程
裏路地の奥まで進んだ先に開けた場所があった。
その開けた場所で裏路地は行き止まりのようだ。通路は蔵馬たちが入ってきた場所しかない。
そこで4人は足を止めた。

「待ってたぜ」

待ち構えていたのは人間の男だった。
だが、その男からはあからさまな程妖気が纏っているのが分かる。

そしてその男の足元には気を失っているのか
硬く目を閉ざし力なく倒れている希紗がいた。

「希紗…!」

「へっあの極悪非道と名高い伝説の妖狐蔵馬も落ちたもんだな。
こんな人間の女に腑抜けにされるとはな」

靴先で足元に倒れている希紗を蹴るようにつつく男。

蔵馬はその男を睨むように見つめる。

「てめぇか!希紗さんを攫った奴は!」

「ああ、そうだ。
浦飯と蔵馬に用があってな。
話がスムーズに終わるようこの女を使って分かりやすくしただけだ」

「魔界のトップを暗殺したのもてめぇだな…?」

「あんなにあっさり殺されるなんてな。俺も驚いてんだよ。
まあ、楽で助かったがよ」

幽助の問いに男は薄く笑いながら答える。

蔵馬はそんな男を見据えながら

「…俺には何の用だ。
希紗を攫っただけでなく
関係のない人間に乗り移ってまで話したいことがあったんだろう?」

『!?』

驚く幽助と桑原。

蔵馬の言葉に男は顔面が崩壊しそうなほど楽しそうにニヤリと笑い
そして男の肩からズルズルと液体のようなどす黒い物体が這い出てきた。

「よく分かったな…そうだ、これが俺の本体だ」

その物体は顔がなく一見は只のぶよぶよとした物だ。
しかし、声はその物から発せられている。

「げぇ…っ気持ち悪ぃ…!」

桑原が若干引いた様子で顔を歪める。

「この姿に見覚えはねぇか蔵馬。
無残に殺された俺の兄と同じ姿だ」

「………?」

蔵馬はしばらく考え、やがてハッとする。

「お前は…魔融(マト)か…!」

「魔融…?」

聞いたことがない妖怪の名前に幽助が問う。

「液状の体を持つ妖怪です。
たとえ毛穴程小さな物だろうと隙間さえあれば入り込み
内側から相手を操る…もしくは食い潰します」

「えげつねぇ…」

蔵馬の説明に青ざめる桑原。

「魔融と初めて会ったのは仕事帰りの裏路地…
そこで希紗とも初めて会いました」

「なっ?!」

「そうだ…あの時俺の兄は殺され
復讐の為に運悪く鉢合わせた女をずっと付け狙っていた。
いつか利用してやろうと思っていたが
まさか蔵馬とそんな関係になるなんてなあ!
全く笑いが出るぜ!!」

心底愉快そうに魔融は顔のない顔で笑う。

その笑いが声が不快だったのか飛影は小さく舌打ちをすると

「ゲラゲラとうるさい奴だ…さっさと用件を言え」

「ハッそうだったな。
だが簡単なことだ。そう時間はかからねぇ」

魔融に操られた男は横たわっている希紗の髪を掴むとぐいっと持ち上げる。

「う…」

痛みのせいか希紗は声を漏らして顔を歪める。
しかし余程眠りが深いのか目覚める様子はない。

「浦飯、この女が大事なら魔界トーナメントを廃止し
以前の魔界と同じように戻せ」

「てめぇ…!」

「蔵馬、女が大事なら大人しく俺に殺されろ。
どうだ…簡単だろう?
女が大事なら言う通りに動けばいい。
大事じゃないなら見捨てればいいだけだ。
おっと、俺を殺したくとも殺せないのは分かるよな?
なんせこの人間が死ぬか俺自身の意思じゃないとこの体から出られないからなぁ」

「逆に言えばお前がその体から出てしまえば絶体絶命ということだ」

「俺を甘く見るなよ蔵馬…
俺は弟の立場ではあったが能力では兄より勝ってたんだよ。
殴ろうが切ろうが俺は死なない。
兄を殺した自慢の鞭であろうがな」


闇夜の一触即発
互いのピリピリと肌を焼くような殺気が
裏路地に充満していった。



- 55 -

×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -