「南野くんちょっと良いかな」

翌日、午前の業務をこなしている最中に希紗の上司である佐原さんに呼ばれた。

「お疲れ様です。なんですか?」

「お疲れ。
仕事中悪いんだけど希紗さんのこと何か聞いてないかな?
今日出勤してないんだよ。
家に連絡しても出ないし…
無断欠勤するような人には思えないから心配でさ。
南野くんと仲良いみたいだから何か聞いてないかと思って」

「希紗が、ですか…?」

昨夜彼女の家に行ってしばらく居座ったが
結局彼女が帰ってくることはなかった。
近辺も捜してみたが見つからない。
嫌な予感はするがまだ彼女が妖怪に捕まったという確たる証拠がなく
単に俺を避けて逃げ回ってるだけだとも言える状況だった。

だが…

佐原さんの言うとおり
彼女は無断欠勤するような人ではない。

これで確信した。

「あれ、昨日希紗から風邪ひいたみたいだから明日休むってメールがきましたが…
連絡まだきてませんか?」

「え、そうなの?」

「はい。体が怠いから熱を計ったら8度もあったって…」

「うわ、きついなーそれ」

「もしかすると起きられないくらい辛いのかもしれませんね。
本人には言っておきますので、今日は欠勤にしておいて下さい」

「ん、分かった。
お大事にって伝えておいてくれるかな」

「分かりました」

「じゃっ呼び止めて悪かったね」

「いえいえ」

納得した様子で自分の部署がある階に戻る為
エレベーターに乗り込む佐原さん。

人懐っこく手を振ってくる相手に俺は会釈として頭を下げる。

やがてエレベーターの扉が閉まるとすぐさま胸ポケットからケータイを取り出し、近くの倉庫に入る。
人がいないのを注意深く確認すると幽助に電話をかけた。

何度かコール音が鳴り、やがて「んー…蔵馬かぁ?」と眠そうな声が返ってきた。

夜間業の彼はまだ寝ていたのだろう。

「幽助、親しい間柄の人達は無事か?」

『おー、まあな。
一応用心して色々対策しってけど…
いきなりどうしたんだよ』

「希紗が消えた。
今日無断欠勤してるみたいなんだ」

『っ…!?』

「おそらく昨日からだ。
昨夜彼女の家に行ったら微かに妖怪の残り香がした」

『おまっなんでその時に連絡しなかったんだよっ』

「今ちょっと彼女といざこざがあって避けられてるんだ」

『またか』

「だから昨夜の状況だけでは判断出来なかったんだよ。
もしかすると彼女が俺から逃げ回ってるだけかもしれなかったからね」

『くそっまさか希紗に手が伸びるとはな。
てっきり随分前から顔が割れてる螢子とか、蔵馬なら家族だと思ってたのによ』

「でも幽助となら付き合いは長いじゃないですか
俺の場合だと付き合いは長くはないが、特別に想われている……っ!?」

俺は自分の言った内容にハッとする。

『?なんだ?』

「つまり、希紗を連れ去った犯人は
幽助と俺が目的ということになります。
それぞれで人質を取るよりも
希紗は俺と幽助が共通して親しい人ですから
彼女一人を人質にしたほうが楽でしょう」

『な…っ』

「幽助には魔界トーナメントを廃止させる為に
そして俺は個人的な私怨でしょう。
心当たりが有りすぎて覚えてないくらいです」

『…………。
希紗は、螢子みたいに霊界や魔界とかそういったものには一切関わってねぇ
俺から聞いて知ってる程度だ。
なんで顔が割れた。
なんで、希紗の存在がバレた?
蔵馬だって希紗を巻き込まない為に気をつけてたんだろ…?』

「………気をつけだしたのは最近だ」

『は…?』

「それまでは積極的に彼女と一緒にいたし、愛おしんだ。
おそらく敵の真の狙いは俺だ。
希紗が偶然幽助とも知り合いだったから
ついでに魔界トーナメントを廃止させようと企んで暗殺したのでしょう」

『じゃあ、蔵馬はずっとつけられて…!?』

「いや、俺をつけたら確実にバレる。
つけられていたのは希紗だ。
俺と希紗が一緒にいるときはバレないようその場から逃げていたのだろう」

『ずっと狙われてたのかよ…』

「幽助、俺は今から職場を早退して希紗を捜す。
手伝ってもらえないか?」

『おお、いいぜ。
人手が多い方が良いだろう桑原と…あと、飛影にも声かけとくぜ。
飛影は来るか怪しいけどよ』

「彼は気まぐれですからね。
大丈夫、3人だけでも十分助かりますよ」

『おうっじゃ、また後でな!』

「ええ」

通話が終わると蔵馬はケータイをポケットにねじ込み倉庫を出る。

早退の準備を急ぐため廊下を早歩きで歩きだした。

「(希紗…っ)」


愛しい人の
行方を求めて

すぐ助ける。
巻き込んで、ごめん。

 
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