そして、事件は起きた。

「ふうぅ…ただいま…」

今日も疲れた。

私は誰もいない自分の家にそう言って帰ってきた。

仕事で疲れたのももちろんだが
それ以外にも理由はある。

今日の帰り道はいつもと違って緊張したからだ。

というのも、帰り道に蔵馬さんが待ち伏せされている可能性があった為
私はいつもと違う場所から会社を後にし
いつもと違う道を通って帰ったのだ。

しかし相手は妙に勘の鋭い蔵馬さん。
裏をかかれて待ち伏せされ、結局捕まってしまうという事態も大いにあり得る。

「(運良く逃げ切れたけど
多分その内家に来るかも)」

何故かは分からないがそんな気がする。
彼の性格を考えたら、おそらく…いや、きっと。

居留守なんて無意味だ。
彼にとって鍵なんてあってないようなもの。

必要最低限の物を持ったら今すぐ家から出て
どこかに逃げないと…

とりあえずスーツ姿から着替えようとクローゼットを開ける。

その時だった。

「っう…?」

何かが体内に入り込んでくるような感覚がする。

「ぁ…な、に…?」

やがて体の自由がきかなくなる。

意識が、霞んでいく。

頭の中で声がした。

『お前を利用して揺さぶらせてもらうぜ。
浦飯と、蔵馬を…!』

そこで

私の意識はプツリと切れた――…

















「参ったな…
俺ともあろう者が彼女に出し抜かれるなんて」

会社が終わった後
蔵馬はすぐに希紗を待ち伏せていた。

もちろん理由は彼女の誤解を解く為。

相手は話を聞こうとしないが
押さえつけてでも話を聞いてもらうつもりでいた。

しかし何時まで経っても彼女は会社から出てこない。

彼女の上司である佐原に確認すると、もう随分前に帰ったようだ。

「(先を読まれた…!)」

自分の行動を読まれていたなんて…

まったく、女性の勘というものは末恐ろしい。

日頃から勘の良い蔵馬だったが
女性特有の所謂『女の勘』には未だに勝てる気がしないのだ。

男性とは違い、第六感が女性達にはまだ残っているということだろうか?

蔵馬はそんなことを考えながら彼女が住んでいるアパートの階段を上る。

「もう逃げられてるかもしれないな…」

だが明日も仕事だ。

ずっと帰ってこないわけにはいかないだろう。

ならばせめて部屋の中に細工をして
逃げられないようにしておくしか…

「(無臭の眠り粉を空中に振り撒く植物でも仕込んでおくか?
もしくはベッドに蔓を忍ばせて捕らえるか…)」

そんなことを考えながら彼女の家のチャイムを鳴らす。

案の定、返事がない。

中から気配が感じないし居留守でもないようだ。

仕方なく蔵馬はいつものように強行突破しようと
まずドアの施錠を確認する為ドアノブを捻る。

当然開かない。
と、思っていたが予想外にもすんなり開いた。

「鍵もかけずに外出?
…不用心だな」

不審に思いつつ、これ幸いと家の中に入る。

家の中は真っ暗だった。

電気のスイッチを見つけて灯りを着け
靴を脱いで中に入っていく。

「…っ」

一気に厳しい顔付きに変わる。

彼女の家なのに
微かに妖怪の残り香が鼻をついたからだ。

クローゼットは開けっ放し。
カバンは放りっぱなし。

中身は財布もケータイも入っている。

「(嫌な予感がする。
まさか…希紗…?)」

今まで触れたいのを我慢して避けていたんだ。

今日は我慢出来ず抱きしめてしまったが
彼女と自分の関係は他の妖怪にバレてないはず。

その時、蔵馬はふと机の上の手紙が目に入った。

封筒も近くに置いてあり
それには宛名もなにも書かれていない。

悪いと思いつつ手紙を広げて蔵馬は読みだした。


彼女の行方
「…希紗……」
プロからの厳しい言葉が綴られた内容。
「(ダメだったのか…)」

 

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