「南野さん!彼女が出来たって本当なんですか!?」

「秀一くんっ
いつから彼女なんていたの!?」

次の日、出勤してきた蔵馬さんの周りには大勢の女性が集まっていた。

それをつい今し方出勤してきた私は遠くで眺める。

蔵馬さんは突然やってきた女性達に戸惑いながら何か話していた。

「ちょっちょっと待って下さい皆さん」

「正直に教えて秀一くんっ」

「た、確かに彼女とは付き合いはありますけど…!」

キャー!いやー!と、女性達の声が上がって続きは聞き取れなかった。

でも、それだけ聞けたならもう十分。

自分の部署に向かおうと体の向きを変えたその一瞬
蔵馬さんと目が合った。

「ま…希紗!」

構わず部署に向かう為エレベーターに乗る。

他にエレベーターに乗ってきた男性達がひそひそと話す。

「聞いたか?今の」

「ああ。
ついにあの南野さんに彼女がなぁ」

「こりゃしばらく荒れるだろうな女性職員」

「こえーこえー。
公私混同されて八つ当たりされちゃたまんないよな」

「(…………)」

私が返事しなかったから付き合いだしたのかな。

まあ、私には…関係ない。

「(うん。関係、ない)」

彼と違う部署がこんなに有り難いと思ったことはない。

しばらく顔を合わせたくない。

そう思ったのに。

仕事が始まって約一時間後、私はお茶を淹れる為給湯室に向かった。

カップにお茶のティーバックを入れてポットからお湯を注ぐ。

が、いくらボタンを押してもお湯が出ない。

「あれ」

フタを開けて中を確認するともうお湯がなくなっていた。

「ああ、もう。
今日の担当誰よ…
仕方ないな」

自分も必要だし、お湯を作っておいてやるか。

自分用はやかんでお湯を沸かしながら
ポットの中に水を溜め、フタを閉じるとボタンを押して沸騰させる。

ガチャリと後ろのドアが開いた。

私は後ろを確認せず作業をしながら

「あ、すみません。
今日の担当がお湯作るの忘れてたみたいで…
今作ってる所なんで」

片方の肩に重みを感じ、お腹の前で腕が回される。
首筋を赤い髪がくすぐり
ほんわりと薔薇の香りがしたのはほぼ同時だった。

「…希紗…」

「っ……」

蔵馬、さん…

「ああ、やっと触れられた…
すまないけど
しばらくこのままでいさせてくれませんか…?
希紗に触れるは久しぶりだから…」

「なんで、この階に…」

「書類を届けていたら丁度希紗が見えたんです。
我慢出来なくなって届けてすぐ追いかけたんですよ」

「蔵馬さ…」

「返事は、まだですか…?」

「ダメ…ですよ」

「…え?」

私は体の向きを変え、無理やり彼を引き離した。

「希紗?」

「自分の立場分かってるんですか?
彼女がいるのに、こんな…!」

「っそれは違う!
やっぱり誤解してたんですね。
彼女との付き合いは…」

「やだーっもー!」

「だって本当だもーんっ
…って、南野さん!」

ガチャリとドアを開けて入ってきたのは女性職員2人。

「偶然ですー!」

「この階にいるなんて珍しいですねっ」

「あ…は、はい。
書類を届ける用が…」

丁度やかんのお湯も湧き、私は素早くお湯をカップに入れてお茶を作るとさっさと給湯室を後にした。

部屋を出る際、蔵馬さんが引き止めたそうな顔をしていたが
そんなの関係ない。

逃げ込むように部署に入り
そして何事もなく仕事を再開した。


擦れ違いの始まり
聞く耳を持つ気になれない。
今の私にはそんな余裕なんてない。

 

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