魔界では新たな展開があった。

「暗殺者の犯人が名乗り出ただって!?」

「ええ。
それだけでなく、犯行声明も」

幽助の驚く声とは対称的に、蔵馬は冷静に答える。

「犯人の目的はただひとつ。
魔界をトーナメントがおこなわれる前の状態に戻すことです。
暗殺は見せしめ。
要求が呑まれるまで、人間界の人間を一人ずつ殺すとのことです」

「なんでそこまでこだわるんだ?」

意味が分からない。と言いたげに顔を歪める幽助。

「おそらく、犯人はトーナメントに興味がないんじゃないかな。
興味がないのに人間を食することを規制されたり
したくもない人間を庇護するような活動。
不満が募るだけ募って爆発した、という所でしょう。
魔界の住人全てが決闘に興味があるわけではないですからね…
実力はあっても参加しない妖怪は多いです」

「なるほどな…
まあ、確かに民主主義な内容じゃないよな。
トーナメントで勝った奴の言うことを聞くって」

「しかし黄泉や骸を含め大半が賛同したんです。
今更前の状態に戻すのは無理がありますし
かと言って新しくルールを作るのも時間がかかりすぎる」

「結局、犯人を捕まえた方が早いってことか」

めんどうそうに頭をボリボリかきなが幽助はそうぼやいた。

「人間を殺せば霊界との関係に溝が出来る。
せっかく今は落ち着いてる状態なのによー」

「人質がいるとなると慎重に動かないといけませんね。
下手に動けば相手を刺激しかねない。
幸い、犯人は期日を設けていません。
作戦をよく練って対策していきましょう」

「頼りにしてるぜ蔵馬。
こういうのは苦手でよ」

「確かに。
幽助は心理戦は苦手そうだ」

「おうっ
単純に殴り合って勝ち負け決めた方が分かりやすいからな!」

相変わらずまっすぐな性格の仲間に蔵馬はクスッと笑う。

「まずは人間界に戻って犯人の潜伏先を割り出すことから始めましょう」

「宛てはあるのか?」

「目星はあります。
おそらく皿屋敷市です。
明確な根拠があるわけじゃないが
トーナメントの発端となった幽助が住む場所です。
理由としては十分だと思います」

「なるほど。
じゃ、一旦帰るか。
身内の安否も気になるしな」

「そうですね」

蔵馬は頷き、そして人間界に戻る為準備を始めた。















「ねぇー聞いた!?
例の噂!」

お昼休み。
弁当を広げ、開口一番に同僚が言った。

「聞いた聞いた!
かなり噂になってるもんね!」

「ショックよねー」

「私今日仕事早退したくなったもん」

「…なに?何の話?」

同僚達はみんな知っているようだ。

気になった私は思わず問いかける。

「希紗知らないの?
今超話題になってるのに」

「だから、なにが?」

「南野さん、彼女出来たんだって!」

一瞬、頭が真っ白になった。

「(わ…私のこと?
いやでも、まだ私返事してないし)」

「ほら、希紗が部署移動した後
南野さんの部下になった人!
あの人らしいよ?」

「…………え?」

たしか、私に「南野さんに近付くな」って言った…?

でも彼女は蔵馬さんに告白してフラれたはずじゃ

「2人が抱き合ってる所をもう何人も見たらしいの」

「私は一緒に帰ってる所見たことある」

「あーあー
南野さんもついに他人のものかぁ」

「私泣きそう…
南野さん大好きだったのにぃ」

違う。違うよ…

だって、彼は私に…

「まあでも、あの人ならなんか納得するかなぁ…
美人だもん。悔しいけどね」

「今時珍しく奥ゆかしいしねぇ
お似合いだよね。悔しいけど」

「美男美女カップルかぁ」

「違うよ!2人は付き合ってなんか…!」

そこまで言って私はハッとし、口を塞いだ。

2人が付き合ってないと言い切る根拠はある。

でもそれは、「私が告白されたから」と暴露しないといけないわけで…

「…希紗?」

不思議そうな同僚達に私は笑って誤魔化し
昼食の続きを再開する。

「な、なんでもない。
へ…へぇ〜…ついに南野さんにも出来たんだ」

「まだ噂でしかないけど目撃者が多いからねー」

「もうキスもしたのかなあ?
あーっ私の南野さあん…!」

ズキリ、ズキリと
胸の奥が痛い。

まるで胸を、一定のリズムでナイフを使って刺されてるみたいだ。

心が、痛い。

「…ごめん。
私ちょっと用思い出して…
先に戻るね」

まだ昼食が半分も残った状態で席を立ち
声をかける友人達を無視してそそくさと食堂を後にする。

昨日のショックからまだ立ち直っておらず
今の私の涙腺は緩い。

じわりと込み上げた涙が一筋だけ流れた。


寒い心
落ち着いて私。
蔵馬さんが誰と付き合おうが関係ないじゃない。
関係ないのに…なんで…
胸が痛い。

 

- 51 -

×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -