蔵馬さんとまともに顔を合わせなくなってもうどれくらい経っただろうか。

私は彼から告白されたものの
未だに自分の気持ちが分からないでいる。

とりあえず彼からつけたられた首のキスマークは絆創膏を貼って隠し
事情を知らない同僚に理由を聞かれたら、爪で引っ掻いて血が出たと誤魔化すことにした。

キスマークって意外と元の肌色に戻るまで時間がかかるのか…初めて知った。

そんなことをぼんやり考えながら仕事をしていると
後ろから肩をポンッと叩かれた。

振り返り、そこにいたのは佐原さんだ。

「お疲れ様。
希紗さん、今大丈夫かな?」

「お疲れ様です佐原さん。
はい、大丈夫です。
どうしたんですか?」

「これ、渡しに来たんだ」

目の前に差し出されたのは一通の封筒。

受け取りながら「これは?」と、問うと

「この間話した、知り合いが知ってるプロのイラストレーターに希紗の絵を見せた返事だよ」

「っ!」

ついに、返事が…!

「健闘を祈ってるよ!
夢が叶うと良いねっ」

「はっはい…!」

早く読みたい所だが今はまだ仕事中。

家に帰ってゆっくり読むことにして
私は封筒を折り曲げないよう丁寧にカバンの中にしまった。

就業時間が待ち遠しい。

定時に帰る為にも
私は仕事を進めるペースを早めたのだった。



















家に帰りつくと、着替えも夕食も全て後回しに
カバンから封筒を取り出すと椅子に座ってさっそく読み始めた。

ドキドキしながら少しだけ期待しつつ書かれている文章を読んでいく。

私の絵は評価されるのか。

私の、今までの努力が実るのか…?

―――実ってほしい。

どうか…!

祈るような思いで文章を読み進めていく。

そして…

「……………」

私は、脱力した。

内容は
簡単に言えばこういうものだった。

『絵に対する熱意や努力は認める。
けれど、今のままでは使い物にならない』

「……やっぱり
私、向いてないのかな…」

ネットで見つけたコンテストも
残念ながら私は選ばれることはなかった。

手紙を机の上に放り
俯いて呆然と床を眺める。

「(…どこかで、私は自分の絵に対して自信を持っていた)」

誰かが評価してくれる。

誰かが、私の絵を認め
そして求めてくれる。

きっとどこかにいる。

そう思っていたのに―――…

「……何がダメなんだろう…っ」

自信を持つのはまだ早いのだろうか?

私には何が足りないのだろうか?

根本的に、私に絵は向いていないのだろうか…

頭の中がぐちゃぐちゃで
ひたすら評価されないことへの疑問しか浮かばない。

その内、私を評価してくれなかった手紙の差出人に
まったく意味のない怒りまで込み上げてくる始末。

「(評価されないから怒るなんて馬鹿げてる)」

分かっているのに
抑えても抑えても、どうしても怒りが湧き出てくる。

「私って、ほんとバカ…」

意味のない怒りを
全然悪くない相手に
自分の勝手な感情で向けてしまう。

そんな自分がむなしくなり
私は小さくうずくまってしばらく泣いた。


孤独な夜
諦めたくないのに、挫折しそうになる。
いっそ夢なんて捨てて楽になりたい。
そう、思ってしまった。

 

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