あれから南野さんとの接点は驚くほど減った。

部署が違うおかげで只でさえあまり会えないのに
なんだか拍車がかかったみたいだ。

だから、まだ彼に返事をしていない。

『好きだ』と言われ
あの時は流されて私も好きだと言いそうになったが…

実際はどうなのだろうか?

相談にのってもらいたくて幽助くんの所に行ったりもしてるが
何故か彼は屋台を休業しており、会うだけでなくなかなか連絡もとれないのだ。

温子さんは何か知ってそうだけど…

だからと言って同僚に話すのは自殺行為だし。

誰にも相談出来ないまま
胸がもやもやとスッキリしない日々が続く。

なにこれ放置プレイ?

好きだなんて勝手なこと言っておきながらそのまま?

次南野さんに会ったらどう答えようかってこんなに悩んでるのに…
その本人はまるで避けるかのように私と顔を合わせてくれないなんて。

イライラして焦れったい。

「最近南野さん忙しそうだねー」

「ほんとほんと。優秀だから仕方ないよ」

「南野さん…疲れて倒れたりしなきゃいいけど…」

「ねー希紗ー、なんか聞いてない?
南野さんとまだちょっと繋がりあるんでしょ?」

「知らないよ。あんな元上司っ
だいたい、私はもう南野さんとは関係ないんだから」

「…どうしたの希紗。
なんか怒ってる?」

「怒ってなんかないっ」

「怒ってるじゃない」

「とにかく、私は南野さんのことなんかもう知らないんだからっ…先行くね」

食べ終わった昼食を片付け、さっさと自分の部署へと戻る。

やつあたりって分かってるけど…
「何かあったんだ」って思っててもらおう。
仲が良いからこそ出来るものなのだ。
…だからってしょっちゅうして良いものじゃないけど。

「(もうっこんなことしてしまうのも全部全部南野さんのせいよ!)」

好きってなによ!

日頃あんなにいじめておいて好きっておかしいじゃない!

私が気付いてないだけとか有り得ないから!

あんなの全然愛情表現じゃない!認めない!

しかも言うだけ言って突然避ける!?
意味わかんない!

「なんで私なんかを好きになるのよ…!」

「好きになったんだから仕方ないじゃないですか」

突然後ろから聞こえた声にハッとして振り返る。

そこに立っていたのは南野さんだった。

「何か用ですか」

「あの時の返事、聞かせてほしくてね」

「なんのことですか?全然分かりません。
いきなり私を避けるようになった人とのことなんて全部忘れましたッ」

「それも今は仕方ないんだよ。
落ち着けば避けたりなんかしないさ。
でも、その前に返事だけは貰いたい」

「忘れました。
忘れたことの返事なんて出来ません!」

「じゃあ思い出させてあげますよ」

「え?ちょっやめ…!」

いきなり腕を強く引かれると近くの書類倉庫の中に入れられ、抵抗する暇もなく閉じられたドアに押し付けられる。
そしてすぐに南野さんにキスをされてしまった。

「っ…」

長く続くキスに私は思わず彼のスーツをギュッと握り、なんとか羞恥心をごまかそうとする。

しばらくしてやっと離れてくれる。
だが追い討ちをかけるかのように、逃がさないという意図もあるのか抱きしめられ、耳元で囁くように

「思い出しましたか?」

「やめ…!」

慌てて囁かれた耳を手で隠す。

その様子を見て彼はクスッと笑い

「耳が弱いんですね」

「違いますバカ!」

「…一応、上司なんですけど…」

「思い出したくもないです!
離してください!」

「嫌です。返事をください」

「返事なんてありません!
勝手に好きなんて言って、勝手に無視して、勝手に返事を欲しがる
そんな自分勝手な人にあげる返事なんてありません!
人がどれだけ悩んだと思ってるんですか!!」

「…悩んでくれたんですか?」

「悩んでません!」

「矛盾してますよ」

確かに我ながらトンチンカンなことばかり言っている気はする。
だが、これはいきなり個室に連れ込んだ南野さんが悪いんだ。
いきなりキスなんかする南野さんが悪いんだ。
全部南野さんが悪いんだ!

「南野さんなんか、キライです…」

「………」

「…でも…『嫌い』じゃない、です」

これが精一杯の返事。

顔も体も熱くてこれ以上は無理。絶対無理。死んでしまう。

だがこの鬼畜上司はフッと笑うと

「『好き』しか受け付けないって言いましたよね?」

「バカ!!」

「一応上司…」

「キライです!大っキライですバカ!盗っ人狐!!」

「あまのじゃくだなぁ…」

『もう慣れましたけどね』とクスクス笑いながら少しだけ私の体を離す。

そして目を合わせてくると

「魔界の話は聞いてますか?」

「…幽助くんから、ちょっとだけ…」

「いまその魔界に大事件があって、俺は魔界に人間界に行ったり来たりと忙しい状況です。
避けていたわけじゃない。
…いや、避けてはいました。
魔界の住人は騒ぎだすと手がつけられなくなる。
妖狐だった俺を狙う奴らも少なくない。
俺と繋がりがあり、特別に想われていると知れ渡ると希紗が危ないんだ。
だから、なるべく関係ないようにしていたんです」

「…………」

「まだまだ忙しくなります。
仕事をやむを得ず休む時も増えてくると思います。
…その隙に他の男に取られるなんて癪ですからね」

「!?ちょっと!待っ…!」

いきなり首筋を晒されたかと思うと、南野さんが其処に強く吸い付いてきた。

「やだ!やだやだ変態!」

「へ、変態なんて初めて言われましたよ」

苦笑しながらやっと離れてくれた。

慌てて首筋を手で覆う私。
今まで経験はないがなんとなく分かる。

これ、絶対アレだ!

「こんな所…見えるじゃないですかっ」

「当たり前です。見えるようにつけましたから」

「なんでですか!私恥ずかしくて此処から外に出れません!
こんなことしなくても私に手を出す男なんていません!」

「それは分かりません。
元盗賊ですからね、自分のものは厳重に守りますよ。
手出しなんかさせません」

「だから…!」

言い返そうとする私の言葉を遮って南野さんは再び抱きしめてくる。

「しばらく傍にいれない。
だから、その間ちゃんと考えて
次会った時にハッキリ答えてくれ。
…一緒にいられなくて、ごめん」


答えはまた会った時に
「別に、私は南野さんがいなくったって何の問題もありません」
「さすがに傷つきますよ、希紗」

 

- 49 -

×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -