「暗殺されたってほんとかよ」

信じられないのか幽助が目を見開いてコエンマに問う。

コエンマは神妙な面持ちのまま頷いた。

「私もびっくりしてるんだよ。
まさか暗殺なんてねぇ」

「犯人はまだ見つかってないんだな?」

「ああ、まだ分かっていない。
それに…暗殺犯も問題だがそれよりももっと重要な問題があってな。
そのおかげで魔界も霊界も大騒ぎだ」

「重要な問題ってなんだよ…」

「魔界のトップになった者は魔界のルールを自由に決められる」

「ああ」

「暗殺されたトップは『後処理が面倒だから人間を喰うな』『公務が面倒だから前のトップが決めたルールを守っていろ』だったが…
その他にもうひとつだけ、ルールがあったのだ。
そしてそのルールは自分が『殺された』時にだけ発表するようにと側近に伝えていた」

「……………」

「そのルールとは
『自分が何者かに殺された場合、その犯人を捕らえ、無様に粛然するまで次の魔界トーナメントは行うな』
というものだ」

「…!?それじゃあ、次の魔界のトップがいつまでも決められねぇじゃねぇかッ」

「そうだ。だから今霊界は騒いでいるのだ。
大半の妖怪は魔界のトップが決めた『前回のトップのルールを守れ』を守るだろう。
前回のトップのルールは『人間界に迷惑をかけるな』だったからな、すぐに人間界にまで影響が出るとは思わん。
だが、暗殺犯が見つからず、ズルズルと魔界のトップが不在の状態が続けば……
おそらく、『存在しない頂点のルールなど守る必要はない』と考える者が出るだろう。いや、すでに出ているかもしれん。
つまり人間界も現段階ですでに、若干だが危険に晒されている。
守りたい者がいるなら注意した方がいいだろう」

寝耳に水な内容で幽助は言葉もなく驚くばかり。

さらにぼたんが付け足すように耳が痛くなるような現状を説明する。

「魔界も魔界で大変なんだよ。
暗殺犯は誰なのか分からない上にこの発表だろ?
『冤罪』を恐れる妖怪が出てきてね、一部の妖怪達は罪を誰でも良いからなすりつけて事を収めようとする奴も出てきてるんだよ」

「なっなんだって!?」

「しかも、そのなすりつける相手は妖怪じゃなくて人間にしようってなってきてるんだよ!」

「人間だったら事情も知らん上に抵抗出来んからな。
罪をなすりつけるには一番簡単やもしれん」

「おいおい、冗談じゃねぇぞ!
魔界の問題を人間界に持ち込むなんてよっ」

「飛影はすでに知っている。
蔵馬の所にもすぐに黄泉から伝えられるだろう」

「あーあ、今から忙しくなるぞこれは…」

幽助はすでに短くなったタバコを潰しながら、疲れたようにぼやいたのだった。


















真剣な眼差しは私の目をそらすことを許さない。

瞳だけで全身を麻痺されたように私の体は動けない。

抵抗出来ない私を
蔵馬さんはじっと見つめたまま抱きしめていた。

「…いま…」

呆然と呟く私に彼は再び言う。

「好きだ」

「でも、だって……
……………からかって」

「からかってない」

「っ…」

「俺の正直な気持ちだ。
…信じられないか?」

コクリと頷く私。

だって、今までそんな素振り…まったくなかったし…
意地悪ばかりしてくるし。
いきなりそんなこと言われたって…

「じゃあ…」

突然彼の顔が近づいてくる。

「まっ待って」

すでに驚いてるのに更に驚き、やっと痺れから解放された体を使い、彼の体を突っ張って抵抗する。

おかげで蔵馬さんの顔は遠くなるが、彼はなにか焦れったそうに顔を歪め小さく舌打ちをすると
私の両腕を掴み後ろの壁に無理やり押し付け

「やっ」

ベッドに乗り上げてきて
強引に唇を押し付けられれた。

しばらくしてその唇が離れる。

「…これが証拠だ」

「……………」

「まだ信じられないか?」

「………」

首を左右に振る。

「いつ、から…?
だって、蔵馬さん…そんな素振り、ちっとも…」

「ずっとしてたつもりだったんだけど?」

「………」

「希紗が鈍すぎるんだよ」

「でも…好きな人がいるって」

「希紗のことだよ。
言っただろ?希紗が一番知ってて、一番分からない人だって。
希紗は自分を一番知ってるけど、自分のことだって微塵も分からなかった」

「…………」

そんな、意味が…

「返事は?」

「え」

「俺は返事を待てるほど気が長い男じゃないんだ。
今、ここで、答えてほしい」

「でも」

「希紗が『好き』って言うまで離すつもりはないからな」

「え!?」

「上司と部下の関係で終わらせる気はないし、ずっとあやふやな関係もまっぴらだ。
『好き』と言え」

「でも、だけど!」

逃げられない。

抗えない。

胸がうるさいほど、痛いほど高鳴っている。

「…………っ」

そんなはずない。

蔵馬さんが好きなんて、そんなことない。

違う。違う…!

「…蔵馬さん…」

でも…いくら否定しても心がすっきりしない。

わだかまりが消えてくれない。

やっぱり、私は……

「好…」

「蔵馬様」

聞いたこともない声に私は驚いて顔を上げる。

蔵馬さんはすでに横目で声の方向を睨むように見ていた。

声の方向にいたのは見たこともない姿の…
あれは、人間ではない。
大きさも容姿もすべて人間離れしている。

それはつまり…

「妖、怪…?」

「何の用だ。取り込み中だ」

「急を要する内容でして…
人間の女を巻き込みたくなければ一緒に来て頂きたい」

「脅しか?」

「いいえ、お話ししたい内容がそういう内容ではありますが」

それを聞いて蔵馬さんは眉を一瞬寄せ、そして仕方なくといった感じで私の両腕を離してくれた。


心の葛藤
「ごめん。また明日」
蔵馬さんはそう言って、見知らぬ人と一緒に部屋を出て行った。




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