「貴女に話しがあります」

仕事も終わってさぁ帰ろう。
帰ったら買っておいた新しいお店のケーキを食べるんだ。
だって私の誕生日だしらんらん☆

と鼻歌混じりで帰る準備をしていたら、隣のデスクに居座る南野さんが突然言ってきたのだ。

南野さんは続ける。

「今夜俺と付き合って下さい」

「…………」

あからさまに嫌な顔をする私。

南野さんは深くため息をつくと

「貴女は本当に学生気分が抜けませんね」

ほっとけやい。

「今夜、俺に付き合って食事をするのと」

私の机にどっさりと書類が置かれる。

「俺と一緒に残業するの。
どっちがいいですか?」

もう食事を選ぶしかないじゃないか。
こんちくしょうなんだこの姑上司。

年に一度の私の誕生日が最悪な日になっちゃったじゃないか。

そう思いながらも
私は泣く泣く南野さんについて行くしかなかった…













それなりの高級感を漂わせる南野さんが選んだレストラン。

運ばれた料理を必死にパクつく。

こんな豪華ディナー年に一回あるかないかだからね

「美味しいですか?」

「まぁまぁ」

なんて可愛くないこと言ってみる。

こんなにも私が饒舌になったのは単に上司で年上だと思っていた南野さんが同じ歳だと知ったからだ。
幼なじみから聞いた私はその日からあっさりと砕けた話し方になり、南野さんは少し驚いていた。

『俺だから許しますけど、他の方にはきちんとわきまえて下さいね』

ちゃんと姑の小言も忘れず言ってきた。

なにを言うか。南野『さん』と言ってる時点でちゃんとわきまえてるじゃないか。

「で、なんですか?」

そんなことはどうでもいい。

今はさっさと話を終わらせて家にあるケーキを食べるんだ。

心で急かす私に南野さんは静かに、真剣な表情で言った。

「俺の本当の正体についてです」

「それなら知ってます」

「えっ」

何故か南野さんが警戒した。

「いつから」

「最初からなんとなくです」

「どうして分かった」

「え、南野さんならよくありそうじゃないですか。
『実は女なんです』って」

投げられたおしぼりを避けきれなかったことだけは記しておく。

















「じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」

食事も話しも終わり、私と蔵馬さんは分かれた。

狐さんだなんてなんだか御利益がありそうな妖怪だなぁ

そう言うと彼らしくもなく激しく脱力していた。

でも絶対他言無用。蔵馬の名前も二人の時のみ使用許可。
なんだかめんどくさい。

「あ、そうそう」

少し離れた場所から蔵馬さんが振り返って私に叫んだ。

「誕生日おめでとう」

それだけ言って、彼は人ごみの中に消えていった。

「…なに、あの人」


生誕夜の食事会
「てゆーかなんで私の誕生日知ってるんだろ」

「(履歴書持ってて良かった)」




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