「夏バテしてるからって冷たいものばかり飲んでは、胃の活動が弱って逆に食欲を落とす原因になるんですよ。
それに冷たいものは意外と喉の潤いが感じられず何度も飲んでしまい水分の過剰摂取になりがちなんです。
暑い時こそ熱いものを飲むのが一番良いんですよ」

そう理屈を並べながら熱いお茶を差し出してくる蔵馬さん。

理屈は分かるがやっぱり暑いものは暑い。
そんな時に熱いものなんか飲みたくなくて受け取るのを躊躇する。

「なんでそんなに詳しいんですか…」

「なんででしょうね。
さあ、飲んで下さい」

「喉乾いてません…」

「では一口で良いです」

「でも」

「希紗、俺は優しい看病なんて期待するなと言いましたよね?」

睨むように見てくる蔵馬さんに負け、私はため息をついて渋々お茶を受け取り一口飲む。

それを見て彼は満足そうに微笑んだ。

「食事もちゃんととらないとダメですよ」

「食欲がないんだからしょうがないじゃないですか…」

「……仕方ないな。
ではせめて果物だけでも食べて下さい」

わざわざ買ってきたのか蔵馬さんは袋から果物を取り出し、とりあえず無難なリンゴを手にとり、台所から果物ナイフを取り出してきて皮をむき始めた。

細かく器用な手つきをぼんやり眺めながら私は

「…蔵馬さんは…」

「…?」

「私以外の人にもこうやってお見舞いに来たりしてるんですか?」

「…いいえ。君だけですよ」

「どうして…」

「…どうしてって…」

「ああ、分かった。私をいじめたいんでしょう。このS狐」

「…まぁ、間違ってはないですね」

唇の端を吊り上げて複雑それな顔をする蔵馬さん。
あれ?なにか間違えただろうか?

「希紗、君がひねくれ者というのは知ってますが」

「すいませんね」

「もう少しシンプルに、ストレートに考えてみませんか?」

「?」

「俺は希紗のことが嫌いじゃないです」

「………」

「だったら…いじめとか嫌がらせではない。
とすれば、残りの理由は…ひとつだけですよね?」

何かを期待してくるような瞳。

何かを伝えたそうな瞳。

何かを求めてるような瞳。

いつの間にか蔵馬さんはリンゴと果物ナイフを置いて私を見つめてくる。

「残りの、理由…」

なんで

こんなにもドキドキするのだろう。

「あの、私…」

「希紗」

「っ!」

途端に、強い力で腕を引かれた。
夏バテのせいで力なんて入らない。
押し返すことも抵抗することも出来ず、私は

蔵馬さんに抱きしめられた。

「くら、ま…さん」

「避けさせない。
只でさえ、俺と部署が違うんだ。部署移動は君の夢の為に妥協した。
でも、これ以上距離を離すことは許さない」

「……………」

「君が、好きだ」



















その頃、客がいない屋台でいつものようにラジオを聞き、新聞を見ながらタバコを吸う幽助の元にひとりの青年と女性がやってきた。

それに気付いた幽助はタバコを消すと表情を明るくして手を振る。

「おー!コエンマにぼたんじゃねぇか!」

「幽助、久しぶりさねぇ」

「珍しいな、お前らが人間界に来るんてよ」

ぼたんと幽助は楽しげに談笑するが、コエンマだけは神妙な面持ちだった。

「幽助、重大な話がある」

「なんだよ」

「…魔界のトップが、何者かに暗殺された」


関係と世界の歯車
「……暗殺…?」

「…蔵馬さん…」
嘘だ。彼が…
私を好きだなんて…




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