天気予報ではついに梅雨明け宣言がされた。

だが今年の夏は前例にないほど暑い。
日本の夏の暑さは、他の国と比べて湿気が多く肌に纏わりつくような暑さが特徴だ。
一度カラッとした暑さを経験したことある人にはその違いが分かるだろう。

何十年この日本に住んでても、やはりこの暑さには慣れる気がしない。

そんな夏の入り口で私はさっそく体調を崩した。

クーラーがガンガンにきいた職場から蒸し暑い外に出て帰る、そんな日常と日頃の睡眠不足が祟ったのだろう。
食欲もなく頭痛がし、体が怠い。
典型的な夏バテだ。

自分の家にクーラーはついてるが電気代節約の為に毎年ながらあまり付けないのだ。
私は日頃から夜更かしや絵描きの為に電気を使っているのだから、電気代が一人暮らしの平均を超えている。
だから何かを諦めないといけない。

「でも…やっぱりきついのはきつい…」

家に帰ってきた私はバッグを床に放り投げてベッドに倒れるようにダイブした。

夏バテなんて何年ぶりだろうか。
きつくて辛いがまさか夏バテを理由に仕事を休むわけにもいかない。
熱でも出れば話は別なのだろうが…

まるで体内に熱が籠もったように全身が熱く熱っぽい。
でも、体温は平熱だ。

体調不良の時こそ食事はしないといけないのは分かっているのだけど…
準備をしてまで食事をする気になれない。

すでに昨日は夕食を抜き、今日は朝を抜いて昼はスポーツドリンクだけだ。
こんなのじゃいけないって思っているけど…食欲がない。

「ちょっとだけ寝て、起きたらお風呂に入って寝よう」

やっぱり駄目だ。食事する気になれない。
1日2日抜いたって平気だよ。
明日起きて、体調が良かったら何か胃に優しい物でも食べよう。

「駄目です」

目を閉じて眠りかけてた私に信じられない声が聞こえた。

重い目蓋を開けて見上げるとそこには静かに見下ろす蔵馬さんがいた。

「っ蔵馬さ!…いたた」

いきなり飛び起きたせいで頭痛が激しくなって目眩がした。

それを彼が優しく支えてくれる。

「希紗の今の上司から偶然話を聞いたんです。
貴女が夏バテで辛そうだって」

聞いてもないのに家に来た理由を話しだす。
疑問に思っていたのだからそれは別に構わないのだが…

「もう慣れましたけど…
なんで毎回勝手に入ってくるんですか」

「今回は鍵が開いてたので」

今回『は』ってなんだ。『は』って。
いつもどうやって入ってんの。

「それから、最近俺を避けてるみたいですからね」

「…………」

「居留守を使って逃げられない為です」

「そんなつもりは…」

「嘘ですね」

「…………」

「俺から逃げられると思ってるのか」

まっすぐな彼の瞳に射抜かれてドキンと胸が鳴る。

「それに、病人は放っておけないんですよ」

「…え」

蔵馬さんによってゆっくりベッドに寝かされながら目で問いかける。
それを見て蔵馬さんは優しく笑うと

「俺の母さんが病気で死にかけたからね…
あんな思いは、もう二度としたくない。
だから…俺が治せるものなら、俺の手で治す」

「…………」

「その代わり、優しい看病なんて期待しないで下さいね」

「うわぁ、そうだと思った」

蔵馬さんが割れ物に触るかのように優しくするなんて想像も出来ない。
むしろそんなことしてたら蔵馬さんの頭の異常を疑います。

そんなこと言ったら、顔に思いっきり冷たいスポーツドリンクのペットボトルを押し付けられた。


甘い関係なんて
無理なふたり

なんだろう、やっぱりこの感じがいいや。
こうして普通に話して、軽口叩き合うのが好き。




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