あの女性に泣かれてから、私は蔵馬さんを避ける事にした。

元々部署が違うからさほど苦労はしてないけど
偶然廊下でバッタリ会った時は挨拶だけして通り過ぎたり
彼が話しかけてきても何かと理由をつけて早々と切り上げたり
蔵馬さんからのメールは返す必要があるものだけ返し、電話も出ないことにした。

そんな日が始まって数日後。
私に泣いてきた女性は蔵馬さんに告白したら、断られたと聞く。
だけど、一度フラれたくらいでは諦めないようだ。
またしばらくアピールして、それから再度告白するらしい。
その不屈の精神は素直に関心した。

そしてまた数日。

「…ん…」

私は目を覚ました。
周りを見れば、どうやら私は絵を描いてる途中で机に突っ伏して眠っていたようで、目の前には描き途中の絵が表示されたままのパソコンと、煌々と明るい蛍光灯の明かり。
そして手にはタブレットのペンが握られたままだった。

「…あ、ちょっと寝てた…」

時計で時間を確認すると眠った時間はせいぜい30分くらいだ。
明日は仕事も休みだし、もう少し遅くまで起きていたいけど、眠たい時に描いたって良い絵は描けない。
私はそう思ってパソコンをスリープモードにして軽く片付けるとベッドに潜り込んだ。

佐原さんの知り合いに数枚の絵は渡したけどそればかりを期待してちゃダメだ。
やっぱりそれなりに実績がほしい。
なので私は偶然パソコンのネット上で見つけたコンテストに応募しようと思ったのだ。

早く続きが描きたいが今はとにかく眠らないと…
締め切りまでまだ十分ある。焦る必要はないよ…

そして私は、深く眠りについた。

















「最近、希紗の様子がおかしいんです」

深夜2時過ぎ。
幽助も桑原も蔵馬も、明日は休みということで久しぶりに幽助の家に三人集まって酒を飲んでいた。
ちなみにダメもとで飛影も誘ったが、やはり来ない所か返事もなかったらしい。
そんなわけで三人だけで酒を飲み、コンビニで買ったつまみを食べながら談笑してると不意に蔵馬がそう切り出したのだ。

幽助と桑原は少しの間蔵馬を見て静止すると

「またかよ。
蔵馬も蔵馬だが、希紗もいい加減気付いてやれねぇのかねぇ
俺が忠告してやったのに」

呆れた顔してタバコを取り出す幽助。

桑原は酒を飲みながら

「で、今度はどうおかしいんだ?」

「俺を避けるんです。
メールも電話も必要以上に返してこなくなった。
職場で顔を合わせたら挨拶ぐらいしかしない。
以前なら軽口を叩き合うぐらいしてたんですが…
急によそよそしくなって…」

「わっかんねぇなぁ女心は。
…いっそ希紗を諦めたらどうだ?」

「………幽助、本気で言ってるのかい?」

「じょっ冗談だって!
んな睨むなよ!」

「これでも進展はあったんですよ。
大人しく肩を抱かれるようになったし、俺を見る目が少しずつ意識してるものに変わっている。
前なんか後少しでキス出来ました。
あの時キス出来ていればそのまま告白したんですが…」

「そこまでしちまったんならもうとっくにお前のこと好きなんじゃねぇのか?
前は拒絶されたんだろ?」

「泣いてたらしいしなぁ」

「…え…そう、なんですかね…?」

「普段キレるくせにこういうことになると鈍いなお前は」

幽助がため息と一緒にタバコの煙を吐き出した時、突然部屋のドアが開かれた。

そこには余所行きの服を身に纏い、顔を化粧で施した温子がいた。

「あらぁ、久しぶりね蔵馬くん」

「お邪魔してます」

「なんでぇ、早かったなオフクロ。
てっきり朝まで帰ってこねぇって思ってたよ」

「ちょっと予定が変わってね。
それより、蔵馬くん好きな人でも出来た?
なんか色々聞こえちゃったんだけど」

ニヤニヤしながら聞いてくる温子に幽助は「ゲッ」と声を漏らした。

「盗み聞きかよ。いい趣味してんな」

「温子さんには適わねぇぜ」

「私で良ければ相談に乗るわよ〜?」

ニコニコ笑いながらちゃっかり座ってきて話の輪に入ってくる温子に、蔵馬は苦笑しながらも正直に話した。

その話を黙って聞いていた温子はやがて少しの間唸ると

「私は、その子はもう蔵馬くんを意識してる…というより、好きになってると思うわね」

「え…」

「蔵馬くんを避けるのは、好きだと気付いたけど素直になれずにいるか…
もしくは、周りの女の子達から何か言われたんじゃないかしら。
ほら、蔵馬くんモテるでしょ?
だから『近付くな』みたいな事を言われたとか」

「そんな…俺、別にモテませんよ。
この歳でまだ付き合った事ありませんし」

「それなりの美女と美男子は彼氏彼女は出来るけどね、よっぽどの美女と美男子は意外と出来ないものよ?
やっぱり少しくらい欠点がないと声かけづらいもの。
蔵馬くんは完璧すぎる美男子だから、周りの女の子達は緊張してなかなかアプローチ出来ないのよ。
でも、蔵馬くんの知らない所では激しい女の争いがあってるもんよ?」

「………………」


男子には分からない世界
「女ってこえー。
あ、だから螢子もこえーのか!」
「あ、螢子ちゃんに言ってやろー」
「やっやめろ!」
「うはは!殺されちまえ幽助ー!」
「(彼女は…俺のことが…)」




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