「新しい部署はどうですか?」

「えっ」

コーヒーを淹れていた最中で声をかけられ、私は肩を大きく震わせた。

あの後、ネコの里親を紹介してくれた礼がしたいと私は言ったのだが、彼は必要ないと言った。

それでも引き下がらない私に蔵馬さんは少し考えると、「では、コーヒーをご馳走してほしい」と言ってきたので私の家に来ることになったのだ。

でも、私の気持ちは、肩を抱かれた時から落ち着かず胸はドキドキしている。
体温だってどことなく熱く感じるし、さっきから部屋に居座ってテレビを見ている蔵馬さんを意識してばっかりだ。

「熱っ」

ほら、動揺してまだ熱いヤカンに触ってしまった。

おかしい。絶対におかしい。
落ち着いてよ私…!

「希紗っどうしたんですか?」

「だっ大丈夫です!
火傷しただけなので…っ」

慌てて蛇口をひねって水を出し、患部を冷やす。

指先だし、ほんのちょっと触れただけだから大した火傷ではないとは思うけど…

「ちょっと見せて下さい」

「!!?」

いきなり後ろから声が聞こえ、更に手が伸びてきて私の手を掴む。

水で濡れている手を蔵馬さんは自分の目の前に持っていくと

「…利き手じゃなくて良かったですね。
このぐらいなら、俺が作る薬草を貼っておけば…
…………希紗?」

「は、はい」

「さっきから露骨に俺と目を合わせてくれませんが…
どうかしましたか?」

「別に…どうもしてないです…」

「………なら、俺を見て下さい」

「…………別にいいじゃないですか…」

「見て下さい」

「っ!」

顎をグイッと上げられ、無理やり目を合わせられる。

意地でも背けようとするが適うことなく、結局私と彼は見つめあう形になった。

「……希紗…」

「蔵馬さ…」

彼が距離を縮めてくる。
体が密着する。
私の手は掴まれたままで、閉じ込められて逃げようがない。

熱を帯びた彼の目に射抜かれてついに目を離せなくなる。

顎が少しだけ上げられる。

動けない。…動けない。

胸が痛いくらい高鳴る。
体が熱い。顔が熱い。

「っ」

蔵馬さんの顔が近づいてきた。
流されて目を閉じる。

あ…ダメ、くる…!

「ま…」

ピー!!

『っ!?』

まったく予想してなかった甲高い音に2人して目を開けて肩を跳ねらせた。

横を見るとそういえばまだ沸かし途中だったお湯。
ヤカンの口から蒸気を上げて音を鳴らして知らせてくれている。

私は我に戻るとすぐに彼の体を押して、逃げるようにコーヒーの準備を始めた。

「えっ…と…新しい部署についてでしたっけ」

「……チッ…逃げられたか…」

「へ?」

「いえ、何でもありませんよ。
それで…どうですか?」

「楽しいですよ。
その…正直、前の部署よりも」

「自分が好きなことに似てる仕事だから、それは当然でしょう。
良かったですね。楽しく仕事が出来るのは良いことです」

「蔵馬さんは、どうですか?
新しい部下の方は…」

「細かい所まで気がきく優しい人ですよ。
仕事もすぐ覚えてくれましたし…
もう指導員の俺は必要じゃないのかと思うくらい捌くのが早いですよ」

「そう…ですか…
良かったですね。優秀な人が部下で。
仕事が楽になったんじゃないんですか?」

「確かに楽ですけど…
俺個人としてはあまり仕事に慣れてなくて失敗をする人の方が教えがいがあるんですよ」

「…それ、誰のことですか」

「さあ、誰でしょうね」


止まらない高鳴り
彼は私を見ながらニヤリと笑っていた。
やっぱり、意地悪だ。




- 43 -

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -