南野さんが告白される現場を見て以来、私の胸の奥には、まるでチクチクと刺さって地味に痛いすいばりのような感じがしていた。

部署での仕事はまだ不安はあるがここ数日でなんとか覚えられたし、デザインの時に使っているパソコンのソフトも、私が使っているのと似ていたので大して苦労しなかった。

仕事の内容は正直南野さんがいた部署よりも楽しくて充実している。
それはやはり自分の好きな仕事だからだろう。

「(でも、なんでかな…
なんか…気分がスッキリしない)」

イライラしたり物悲しくなったり…
自分でも分かるほど今の自分は情緒不安定だ。

でも、八つ当たりしそうな自分を理性で押し付けられるあたり、まだ少しの余裕はあるということだろうか?
なんにせよ気分が一向に良くならないのはストレスだ。

私がそうぼんやり考えながら、同じ部署の職員から頼まれた書類を持って、エレベーターで階下する。

目的の階に着いて少し歩くと、偶然南野さんと出くわした。

彼の横にはひとりの女性がいる。

「あれ…希紗、この階にいるなんて珍しいですね」

「その、職員の方から書類を届けるよう頼まれて…」

「そうですか。
あ、紹介します。彼女は部署移動してきた方で、俺の部下です」

「初めまして」

「は、初めまして」

丁寧にお辞儀をする彼女は、なんだか清楚な雰囲気の子だった。

「南野さんが私の指導員だなんて光栄です。
これからもよろしくお願いします」

「こちらこそ」

南野さんとその女性は互いに優しい笑みを浮かべあう。
端から見れば、その雰囲気は初々しいがどこか暖かいカップルそのものだ。

なかなか良い雰囲気に私は若干居辛くなり、その場を離れようとするが
次の瞬間、誰かに肩を抱かれた。

「希紗さん、お疲れ様」

その人は佐原さんだった。
この数日で分かったのだが、佐原さんは若干スキンシップが激しいようだ。
最初は驚いたものの、下心も欠片もない笑顔を向けられ何も言えず
気付けば慣れてしまっていた。

「書類かい?」

「はい」

「わざわざありがとう。
…そうそう、昨日希紗さんが出してくれたデザインの案が採用されたよ」

「ほっほんとですか!?」

「うん。やっぱり期待した通りだね、君は」

「そ…そんな」

あからさまに期待された事がない私は照れて顔を伏せる。

その時、佐原さんが南野さんに気付いた。

「…あれ、南野くん。お疲れ様」

「お疲れ様です」

「南野くんはたしか希紗さんの前の部署の指導員だったね。
なんだか悪いね、こんな優秀な部下を僕が貰ってしまって」

「貰っ…!?
佐原さんっ私そんな優秀じゃなかったんですよっ」

「あれ、そうなのかい?
じゃあこれから期待出来るね」

「き…期待されるのは…嬉しいですけど…」

「そんなに堅くならなくて良いよ。
そんな事より、ほら、書類届けないと」

「あ、はい…」

「僕も一緒に行こう。
それじゃ、南野くん、失礼するよ」

「失礼します」

南野さんに頭を下げ、佐原さんに肩を抱かれたまま私は彼の前から立ち去った。

「…あのふたり、なんだかお似合いですね」

南野さんの部下がそう言って眺めていたこと等知るよしもなかった。


誤算の存在
「(…あんな男がいたなんてな)」
蔵馬の心中は、決して穏やかではなかった。




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