研修最終日。

何故か今日は、朝から何度も南野さんに声をかけられたが、タイミングが良いのか悪いのかその度にたくさんの女性達が彼を囲んだ。

内容は皆統一されてるかのように部署移動のこと。
待ってても良いのだがその分時間がなくなっていくし、監視してるみたいで私もあまり気分が良くないのでさっさとその場を離れていた。

そして夕方になり、やはり南野さんは女性達に捕まった。

私は荷物整理を終わらせると南野さんに軽く会釈し、幼なじみの背を挨拶変わりに叩いた。…叩き返されたが。

明日と明後日は休日なのでゆっくり出来る。
今日はスーパーでお弁当でも買って、ついでにデザートも買ってプチ研修期間終了祝いをし、その後明け方まで絵を描こうか。と小さな計画を頭の中で考える。

職場のビルから出て少し歩くといきなり腕を掴まれ、後ろに引かれた。
突然のことに体がよろめいたが、後ろにいた誰かが支えてくれる。

「…え?」

振り返るとそこには南野さんがいた。

彼はポカンとする私に笑いかけると当たり前のように腕を引いたまま

「さあ、行きましょうか」

「えっちょ、どこにですか!?」

「どこって…昨日言ったじゃないですか。
研修期間終了祝いでレストランに行きましょう、と」

「ほ、本気だったんですか」

「もちろんですよ」

そのまま南野さんの車に押し込まれるように乗り、私は彼に案内されるがままレストランに向かったのだった。














着いたレストランは初めて南野さんと来て、元妖怪だと打ち明けられた場所だった。

前と同じように向かいあって座り、それぞれ注文した料理を前にしていた。

「まずは研修期間お疲れ様でした」

「あ…ありがとうございます」

南野さんは水だが、彼に進められ私はカルーアミルクをと週末に甘えた小さな無礼講としてアルコールを頼んだ。
お酒は苦手だからそんなに飲めないが…
ちなみに南野さんがただの水なのは帰りが車だから。

ノリで乾杯をした後、カルーアミルクを数量飲んで、前の料理に手をつけた。

南野さんも同じように料理に手をつけ

「…幽助から聞きました。
部署移動するみたいですね」

「…はい」

「ちなみにどこの部署へ?」

「広告、宣伝です」

「…ああ、なるほど」

部署を聞いただけで理解したのかクスリと笑った。

「夢の為、ですね。
確かにデザインの経験は無いより有ったほうが良いですよね」

「色んなことを経験した方が創作のアイディアに役立つと思って」

「希紗の幼なじみの方は部署移動しないみたいですね」

「はい。
なんか、結婚の為にお金を貯めたいから慣れた部署にいたいって言ってて」

「結婚?」

「今付き合ってる彼女とそろそろ結婚を考えてるみたいです。
確かに大学入った頃からの付き合いだから長いですよね」

「付き合いが長いのは希紗の方でしょう。
…幼なじみの方とは、そういう関係になったことはないんですか?」

「えっ…その…」

一応身に覚えがある内容に私に無意識に顔を伏せてカルーアミルクを飲んだ。

「まぁ…なんていうか、確かに初恋はあいつでしたし
恋愛に一番興味を持つ中学生の時なんか恋人『ごっこ』みたいなのはしたことあります…」

「恋人『ごっこ』?」

「バレンタイン、ホワイトデーのやりとりとか、暇な時に2人だけで遊びに行ったりするとか…そんな軽い感じの付き合いですよ。
恋人同士らしいことは何ひとつしてないし、付き合い方も幼い頃からやってたのと大して変わらないので結局いつも通りの付き合いに戻ったわけです。
幼なじみの壁を越えられなかったというか…」

「…そうですか」

南野さんはそう言って料理を一口食べた。

私も何度か料理を口に運んだ後、南野さんを見て

「でも、どうしていきなり幼なじみの事を?」

「なんとなく気になって」

「…そうですか」

「もう幼なじみの事は気にしてないんですか?」

「ええ。あいつはただの腐れ縁です」

「それなら安心しました」

「へ?」

いまいち彼の考えてる事が理解出来ない。
何故幼なじみを気にするのか、どうして安心なのか。

不思議に思いながらも私は食事を続けた。

そして互いに食事が終わった頃、南野さんがポケットから何かを取り出し私に渡してきた。

それは紙で作られた小さな小袋。

「これは?」

「プレゼントです。研修期間終了祝いですよ」

「そんな、そこまで気を使わなくても」

「俺がしたいから良いんですよ。受け取って下さい」

と、押し付けられるように手に小袋を乗せられた。

気になった私は南野さんに一度開けて良いか聞いて、それから小袋を開ける。
中身を手のひらに乗せると、それはネックレスだった。

ネックレスのトップはシルバーをベースにしたホタルブクロの形をしており、花の部分はガラスで出来たピンクのビーズが2つ吊されていて、小さく揺れることが出来る。

「珍しいでしょう?
ホタルブクロのアクセサリーだなんて」

南野さんが優しい笑みを浮かべながら食後のコーヒーを飲んでいた。

「これ、どこで…」

「偶然街に出てた露天で見つけたんです。
それはひとつしかなくて…普通のお店には売ってないですよ」

「…………」

「ホタルブクロのことを話してる時の希紗がとても優しい表情してたので、好きな花なんだろうと覚えてたんですよ。
…ホタルブクロの花言葉、知ってますか?」

南野さんの言葉に、私は首を振る。

「愛らしさ、誠実、感謝の気持ち。
希紗をそのまま表したような花ですね」


胸の奥にも小さな芽生え
「ありがとう、ございます…
普通に…嬉しい…」
「…やっとデレてくれましたか?」
「ツっツンデレじゃないです!私は!」




- 38 -

×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -