希紗が帰った後、幽助の屋台に蔵馬と途中で偶然会った桑原と雪菜がやって来た。

4人はしばらく他愛もない話をして盛り上がっていたが、ふと会話が切れた時に幽助がそれとなく口にした。

「蔵馬よぉ、希紗が部署移動の希望書出したの知ってるのか?」

「え」

初耳だった蔵馬は食べてる途中のラーメンから顔を上げて幽助を見た。

「それ…本当ですか?」

「ああ。実はさっき希紗が来て話したんだよ」

「えっ希紗さん蔵馬と違う部署に移動する気なのか?」

「みたいだぜ」

桑原と幽助の会話を横で聞いていた雪菜が不思議そうに

「あの…和真さん。
蔵馬さんと希紗さんという方がどうかされたんですか?」

申し訳なさそうに聞いてくる雪菜に桑原は目尻を下げ、満面の笑みで答える。

「希紗さんというのは前話した蔵馬の好きな人ですよ雪菜さん。
実は2人共素直じゃなくてですねぇ見てるこっちが焦れったくなるんですよ。
それでその2人が今度から別々になって働くことになるかもしれないんすよ」

「まあ…!」

雪菜はそれを聞いた途端悲しげに顔を伏せた。

「蔵馬さんも希紗さんも好きあっているのに…
そんな悲しいこと…!」

「っ!」

雪菜の勘違いが蔵馬にとっては不意打ちだったようだ。

蔵馬は一瞬顔を赤らめるがすぐに冷静になる。

「ち、違うんですよ。
俺が一方的に好きになってるだけで…彼女は俺の事は、まだなんとも思ってないんです」

「…そうなんですか?」

「ええ、残念ながら」

「希紗の気持ちはいつ聞いてもアバウトではっきりしないんだよなぁ。
隙さえあれば聞いてるんだけどよ。
「蔵馬のこと好きか?」って聞いても、真顔で「まあ、嫌いじゃないよ」だもんな」

「嫌われてないだけ救いがありますよ」

蔵馬はそう苦笑して水を飲んだ。

「明日、希紗に直接聞いてみます。
部署移動するかもとは言ってたけど…まさか本気だったなんて」

「早く捕まえねぇと逃げられちまうぜ?」

酒を飲みながら言う桑原に、彼は不敵な笑みを浮かべ

「逃がしませんよ。
欲しいものは必ず手に入れないと気が済まない質ですから、俺」

「さすが元盗賊だぜ」

幽助が若干呆れながらタバコに火をつける。
そして一息吸うと煙を吐き出し、蔵馬のコップが空になっていることに気付くと幽助は水ではなく桑原と同じ酒を注いだ。

蔵馬は何の問題もなさそうにそれを飲む。

「実は今日、希紗と食べに行く約束の途中だったんですよ。
でも他の女性達が途中から入ってきたので話をしていたら帰られてしまって」

「そりゃ残念だったな」

「今日は普通に食事をして、そして明日は別の場所で「好きだ」と言うつもりだったんです」

『えっ』

幽助と桑原が驚いて目を見張る。

蔵馬は一口酒を飲んだ後笑って

「そろそろ我慢も限界でして。
前からだったけど、特に最近は酷いんですよ。希紗が他の男と話してたら」

「お前…結構嫉妬深いな」

「俺は自分のものに手を出されるなんて不愉快でしかないんですよ」

「まだなってねぇよ」と幽助は思うがあえて突っ込まずにいた。

蔵馬は酒を飲み干すと代金を幽助に渡して立ち上がった。

「移動だなんて、初耳だな。
告白はまたしばらくお預けですね」

「くそっ希紗の奴タイミング悪ぃ…!」

「ほんとだよなー
なんで希紗さん部署移動とかするんだろうなぁ」

「彼女には彼女の考えがありますから、俺がとやかく言う筋合いはありませんよ。
それじゃあ、ごちそうさま」

「おう、またな!」

「告ったら教えろよっ」

幽助と桑原の言葉を聞いて笑うと、背を向けて歩きだす蔵馬。

「あの」

雪菜に呼び止められ、蔵馬は立ち止まって不思議そうに振り返った。

「希紗さんに…想いが伝わると良いですね」

雪菜の優しい言葉に蔵馬は微笑んで「そうですね」と返したのだった。


想いはいつでも一直線
「似合わないほど希紗にベタ惚れなんだな蔵馬は」
「そういや、蔵馬は何が理由で希紗さんに惚れたんだ?」
「からかって遊んでる内に惚れてたらしいぜ」
「なんだそれ。ロマンの欠片もねぇな」




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