南野さんと眠っている母に会った後、安心した私はとりあえずお父さんの家事を手伝った。

庭に出て干してある洗濯物を取り込んでいると、いつの間にいたのか南野さんが後ろにある壁に寄りかかって立っていた。

「お母さん、無事で良かったですね」

南野さんに私は背を向けたまま洗濯物を取り込んでいく。

「はい……。
…変わってるでしょう?
うちは家事仕事の全般を父がしてるんです。俗に言う主夫なんです。
もちろん母も出来る家事仕事はしてますし、たまに料理も作りますけどね。
父は…母と結婚する前は洗濯物ひとつ畳めないほど家事仕事をしたことなかった人なんです。
でも母と結婚して、自分から家事仕事を学んだみたいです。…元々世話焼きだったみたいで…」

「…お母さんは、下半身不随の障害を持ってるんですよね?」

「……………」

「幽助が教えてくれました」

干してあるシーツをカゴに入れながら

「…下半身の感覚がまったくないみたいなんです。
だからお手洗いや入浴、着替えなどどうしても介護が必要で…
だから家事に仕事にと忙しい父に介護を全部丸投げして一人暮らしなんかしたくなかったんです。
でも、父も母も『希紗には希紗の人生があるから』って言って、介護をしたいという私を無理やり家から出したんです。
心配で不安で、たまらなかった……」

「…希紗……」

いつの間にか止まってしまった手。

そんな私に南野さんが横に来て、干してあるタオルを手に取るとカゴに入れた。

「母親を心配する気持ちは、俺は痛いほど分かりますよ」

「…え…?」

「俺が高校生の時の話です。
そして幽助との面識もほとんど初めての頃…」

彼が話してくれたその内容に私は驚いた。
南野さんも、母を失いかける恐怖を感じたことがあったんだ…
そして、命がけで助けたいと…

そう思った時なんとなく親近感が芽生えた。

「母親も父親も、自分達のせいで大切な子どもの人生を壊したくないんですよ。
たくさんのことを経験して、たくさんの可能性を自身で見いだしてほしいから家から出したんですよ。
希紗の話を聞いて、俺はそう感じましたね」

「……………」

「心配でしょうが、両親が大切ならせめてその想いに応えてあげないと。
君が両親を心配するように、両親も君を心配してるんですから」

南野さんが微笑みながら手渡してくる洗濯物を受け取り、カゴに入れる。

「本当かな…?」

「きっとそうですよ」

「だったら…私、頑張らないと…」

「…具体的に?」

「それはまだ分からないけど
…もう一度、絵を頑張りたい。
夢を諦めた理由も自分が勝手に自信を無くしただけだし
もう一度頑張る。まずは趣味だけで描いてきたたくさんの絵を見直して、手直しをして、それから色々なコンテストに出してみます」

「応援してますよ」

「え?」

私はなんとなく俯かせていた顔を上げて南野さんを見た。

「俺は希紗の絵の第一号のファンですから」

『忘れないでくださいね?』と言う彼に胸がキュンと絞られるような感じがし、同時に照れくさく思った。


夢を追いかけて
夕日に照らされた彼の笑顔を不覚にもかっこいいと思ってしまった。
どうしたのよ。私、おかしい…




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