『おい蔵馬、焦っただろ』

「ははっ…やっぱり幽助の所に行ってたんですね」

ネオンで光る夜の街中を
蔵馬はひとり歩きながらケータイにかかってきた友人と話していた。

『笑い事かよ!希紗のやつ動揺しまくって泣いてたぞっ』

「嫌われたかな…?」

『らしくねぇな…
一体何があったんだよ』

「いえ、別になにもないんですよ。
ただ…俺が我慢出来なくなって暴走しただけで」

『我慢出来なくなった?
まさか……お前…』

「いえ、そういう我慢ではなくて
愛しい気持ちを抑えられなくなったんですよ。
俺がいるのに…他の男の元へ行こうとするから…」

『希紗はそういう奴なんだ。
付き合いが良いからよ』

「分かってます。
希紗と俺はまだそういう関係じゃない。彼女の行動に口出しする権利など無い。
希紗にとって俺はただの上司。
分かってますが…分かってはいるんですが耐えられなかった」

『なあ蔵馬、なんで言わねぇんだよ。
希紗が好きなら言っちまえばいいじゃねぇか。
そうすりゃ希紗だって男友達との付き合いも少しは自重するだろ』

「女々しい理由ですよ。
今まで自分からしたことがないからどう言えば良いのか分からないんです。
いざ言おうと思ってもタイミングが掴めない。
だから向こうから言わせるよう仕向けてるんですが……
なかなか手ごわくて苦戦してます」

『そりゃそうだ。希紗の鈍さは俺が一番知ってる。
だってあいつ大学時代「好きだ」って言ってきた奴に「ああ、うん。ありがとう」って真顔で返したんだぜ?
「絶対好きの意味分かってないだろ」って相手に怒られたらしい』

「それは……また凄いですね。
俺もしかしてとんでもない強敵を相手にしてしまったかな」

『回りくどいことしないでストレートにガツンと言ってやれよ。
そのまま言っても誤解するだけだから押し倒して言えばさすがの希紗も分かるだろ』

「俺が我慢出来なくなるので遠慮します。
…明日ちゃんと謝ります。だから心配しないで下さい。
わざわざすまない」

『おう、気にすんな。
じゃあなっ取られんなよ!』

「努力します」

通話は切れ、蔵馬はケータイを閉じてポケットにねじ込む。

そして何も考えずそのまま帰宅したのだった。

















次の日、私と南野さんはギクシャクとしていた。
よほど分かりやすいのか幼なじみからも心配されるほど。

そりゃそうか…
隣同士の席なのに目を合わせる所か会話ひとつない。
そんな私と南野さんの様子を女性陣が好奇の目でチラチラ見てくる。
なんとなく、視線がいたい。

その時、傍に置いておいた私のカバンからケータイの着信音が鳴り、驚いて肩を震わせる。

やば。サイレントモードにし忘れてた。

「希紗、プライベートのケータイは仕事中は電源を切るように」

なんとなく久しぶりに聞いた南野さんからの姑発言。
しかもこの姑発言が今日初めて聞いた南野さんの声だなんて。

「すみません」

とりあえず今回は私が悪いので謝っておく。

ケータイを見れば父からの着信だったので、南野さんに許可をもらってからひとまず廊下に出て電話に出た。

「お父さん?今仕事中なんだけど…
ていうかお父さんも仕事中じゃ…………え…?」

父から聞かされたその内容に、一瞬頭が真っ白になった。

「………分かった。
今日は早退してすぐ帰るから…
お父さん落ち着いて、大丈夫よ…ね?
すぐ帰るから待ってて。…じゃあね」

電話を切り、少しの間立ち尽くしたがすぐ頭を左右に振って自分に気合いを入れると部屋に戻った。


緊急事態発生
――母さんが倒れた。
お願い。無事でいて、お母さん…!




- 29 -

×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -