「ただいま希紗」

と、蔵馬さんが帰ってきた。

「お…お帰りなさい」

お帰りなさい、だなんて久しぶりに言うからなんだか気恥ずかしい。相手も相手だし。
だいたい同棲もしてないのにお帰りなさいって合ってるのかな。なんか間違ってる気がする。じゃあなんて言えば良いんだ。
同棲者でも恋人でもなんでもない他人が『ただいま』って言ってきたらなんて言えば良いんだ?

『ただいま』
『うん』

なんかおかしい。

『ただいま』
『遅かったね』

すっごい待ってたみたいじゃないか。

『ただいま』
『いってらっしゃい』

嫌がらせか!絶対違う!

「(どうしよう。でもやっぱりお帰りなさいはなんか違う気が…)」

「希紗…、希紗っ」

「えっ」

ブツブツと考え事してたから気付かなかったが、蔵馬さんから呼ばれていたみたいだ。
ハッと気付いた私はすぐに返事をする。

「な、なんですか?」

「お腹空いたでしょう?
夕食、食べに行きましょう」

蔵馬さんの言葉に私は心の中で深くため息をついた。
あー、きちゃったよ。
あんまりこういうの私らしくないんだけどなぁ…

「…希紗?」

「あの、その…」

「…?」

「私…暇で、することもなかったから…」

「………」

「夕飯、冷蔵庫の中にあった余り物でですけど…作ってます。
いっ言っときますけどっ毎度ながら味は保障しませんからね!それでも良いなら温めなおしますけど、安全で美味しい料理が良いなら外に行きましょう」

むしろそうして欲しい。
不味い物を蔵馬さんに食べさせて後々なにを言われるか。
自分だけなら多少不味くても我慢して食べれる。
でもやっぱり人に出す料理だから味は気にしたい。

私は蔵馬さんから目をそらしたまま、ただただ蔵馬さんからの外食OKを待っていた。
頼むから私の料理を食べたいだなんて死に走るようなことは言わないでく

「良いですね。それじゃ希紗の夕飯を頂きます」

言っちゃったよ。

「くっ蔵馬さん!?気を使わなくて良いんですよ!?
外食の方が遥かに美味しいんですから!」

「だってせっかく作ってくれたんじゃないですか」

「暇だったからです!」

「俺は希紗の料理が食べたいんですよ」

「〜っ」

爽やかに笑ってくる彼の様子を見て私は何を言ってもダメだということに気付いた。
ダメだこの人。早死にする。
はやくなんとかしないと。

「…お腹壊しても知りませんからね」

「薬草ならあるんで心配無用ですよ」

いちいちうぜぇ!

薬草飲むくらいなら最初から食べなきゃ良いのにどうしてそこまでこだわる!?

私はキッチンに行って作っておいた料理を温めなおしながら。

「だったら最初から外食を選べば良いじゃないですかっ
今からでも外食にして良いんですよ?」

「言ったでしょう?
俺は希紗の料理が食べたいんです」

「………」

「それに、実は作りなれていない人の料理は食べ慣れてるんですよ」

「…へ?
……ああ、女性達から作ってもらったとかですか?」

「いえ。俺の母さんがあまり料理が得意ではなくて…
だから、もう慣れてるんでいちいち気にしなくて良いんですよ」

「……お母さん…」


呟きの声色
彼女から話してくれるのを待とう。母親について、本当は早く知りたいが。




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