ついにこの日が来てしまった。

朝っぱらからなにをそんなに張り切っているのか蔵馬さんが最低限の荷物を持って家にやって来た。

「…とりあえず荷物を置かせてもらいたいんだけど」

「…どうぞ」

そう言って蔵馬さんを家に入れる。

今回はちゃんと服を着替えられたから良いけど、それでも結構ギリギリ間に合った感じだ。

おかしいな。昼頃来るって言ってたのにまだ昼前なんですが。朝ご飯すら食べてないよ。
初っ端からこんな嫌がらせされて私1日、2日身と心が持つだろうか。
いいよもう。堪えられなくなったら幽助くんの所に逃げ込んで愚痴を聞いてもらうんだ。

「相変わらず机の上はごちゃごちゃですね」

「絵を描く人はみんなそうです。
片付けられないわけじゃなくて、どうしても資料や画材道具でごちゃごちゃになるんです」

呆れた様子の蔵馬さんにそう言いながら、私はせっせと机の上を片付ける。
昨日の描き散らした状態のままだったからなぁ。

スケッチブックを閉じ、まだ下書き状態の紙はファイルに挟み、ペン入れが終わっているものはとりあえず重ねて横に置いておく。
ついでにスキャナーに挟みっぱなしだった絵も取り出して重ねる。

スリープ状態だったパソコンはきちんと電源を落とし、乱雑に置いていた数々の資料集や画集の本を立てかけ、ペンタブはとりあえず空いたスペースに置いておくと、机の上はキレイに片付いた。
こだわる人はもっとこだわるだろうがこれ以上は気にしない。
なによりパッと見そんなに不愉快になるほどのものじゃないから良いと思う。
キレイに片付けすぎて続きを描こうとした時また1から準備しなければならないから余計面倒になるだけだ。

「終わりました…よ…」

振り返って蔵馬さんを見ると、彼はどうやってスリ取ったのか片付けたはずのスケッチブックを普通に開いて中を見ている。ちょっいい加減にしてくんないかな。

「なに勝手に見てるんですか!
ていうかいつの間に!?」

慌ててスケッチブックを取り上げる私に蔵馬さんは悪びれのない爽やかな笑顔で

「俺は元盗賊ですよ?
スリ取るぐらい目を閉じていても出来ます」

「人間社会で生きると決めたんなら少しは自重しましょう。盗っ人狐さん」

「もちろん日頃はこんなことしませんよ」

おっかしぃなあ。
私ってば蔵馬さんから何度スリや不法侵入をされただろうか。
もはやその笑顔と言葉に信憑性のカケラも見出せません。

「さて、これからどうします?
まずは食事にでも行きますか?」

「……」

正直、なるべく蔵馬さんと一緒に歩きたくない。
こんな休日の日だもの、会社の同僚や女性達に目撃されたら全力で勘違いされそうだ。
面倒事はなるべく避けて通りたい。今後の会社での生活の為にも!

「食事ならいりませんから…」

「行きましょうか」

私の腕を掴んでズルズルと引きずるように玄関へと向かう蔵馬さん。
ああああ。なんか毎回似た展開に!

「蔵馬さんって鈍感ですよね」

君にどれだけ憧れている女性がいるのか想像したことないのか。もしくは気付いたことないのか。

イヤミでそんなこと言ってみたら、蔵馬さんは私に背を向けたまま

「その言葉、そっくりそのまま希紗に返しますよ」

「…………」


鈍感なのはお互い様
「…え、ちょっと意味が分からないんですけど」
「ハァー…」
すんごいため息つかれた。何故だ。




- 22 -

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -