家に帰りつくと私はさっそく同僚の友人という人にメールを送った。
覚えている今の内じゃないとすっかり忘れてそうだから。
「よし、と…」
フーッとため息をついてパチンとケータイを閉じる。
その直後に着信がきたものだからもの凄く驚いて肩を震わせた。
着信の番号は登録されてないもの。なるべく知らない番号には出たくないが、非通知でもないし…いいか。
「もしもし?」
『希紗ですか?俺です』
「………」
いや、詐欺じゃないよ?
そんな某詐欺よりも恐ろしいもんだ。
「…なんで私の番号知ってるんですか、蔵馬さん」
『俺だからです』
「…………」
『冗談ですよ。幽助から聞いたんです』
「そーですか……で、なんですか?」
『君の家に泊まりに行く約束をしたでしょう?』
「え、あれ本気なんで…」
『今週の土曜で良いですね』
「ちょっ勝手に決めてるし」
『どうせ暇でしょう?
勝手に決めないと希紗はすぐうやむやにしてしまいますからね』
「確かに特に予定はありませんけどっ」
『じゃあ良いですね。土曜日よろしくお願いします。
ではまた明日会社で…お弁当よろしくお願いします。おやすみなさい』
プツッ…ツー、ツー
「……………」
なんて一方的なんだ。
あまりの展開の早さに唖然と通話のきれたケータイを見つめる。
でも、仕方ないな…って
許してしまっている自分自身にもびっくりだ。
「…やっぱり今日の夕食は食べに行こうかな」
小さなバックの中にケータイと財布、鍵と最低限の物を入れて家から出る。
向かう先は、いつもと一緒。
「よー希紗」
「希紗さんどうも!」
幽助くんの屋台にはいつの間にか顔馴染みになっていた桑原くんもいた。
相変わらず仲良いなこの2人。幽助くんは腐れ縁の悪友だって言い張ってるけど、私もそんな感じの付き合いがある幼なじみがいるので気持ちが分かる気がする。
それから、今夜は見慣れない顔がいる。
「幽助くん、この男の子誰?知り合い?」
「男の子って…多分お前より年上だぞ」
「え、小さくて可愛いかったから」
「…っ!」
黒い男の子の眉間にひどく皺が寄った。
「おいおい、殺されるぞ希紗…
こいつは飛影っていうんだよ」
「へー…よろしく」
「…フン」
軽くそっぽを向く飛影くん。
うわ、ツンデレだ。ツンデレの態度だこれ。
いやっ私はツンデレじゃありませんよ?
「幽助くんいつものね」
「はいよ」
そう言っていつも通り慣れた手つきでチャーシュー麺を作り始めた。
「希紗さん、蔵馬とはどうっすか?」
「相変わらずいじめられてるよ。
友達ならなんとかしてくんないかな」
「なんでぇ蔵馬のやつ、まだ言ってねぇのか」
「そう急かすなよ浦飯」
ラーメンをちゃっちゃと作りながら呆れた顔で言い捨てる幽助くんに、桑原くんはニヤニヤとしながら言って手に持っていたコップの中身を飲み干す。
「蔵馬は意外とシャイってことだろ」
シャイ。むしろそんなもん無縁の人ように感じるが。
「この間のことがあったから、てっきり焦ってるもんだと思ってたんだけどなぁ」
「この間のことって?」
「日下部ってやつ結局妖怪で、蔵馬にやられたんだろ?」
「ああ、あれか…
ていうか…幽助くんってほんと抵抗感ないんだね、妖怪って言葉に。
やっぱり元妖怪の人が友達にいるから?」
『……………』
幽助くんと桑原くんがポカンとして無言になる。何故だ。
「おい浦飯…お前もしかして…」
「ああ…そういや言ってなかったな。
ンなほいほい言うべきことでもねぇし」
「なんの話」
「希紗、俺は妖怪じゃねぇが魔族だ」
「…………」
「人間食うぞ」
「…………」
ラーメンを作りながら、なんともあっさり暴露してきた。
私の返答はただ一言
「…へぇ」
だけだった。
脱力したのは幽助くんではなく桑原くんの方で
「それだけっすか希紗さん!
希紗さんの方が抵抗感ねぇっすよ!」
「いや、まぁ…幽助くんだし、なんとなく納得って言うか…
妖怪とか元妖怪とかいるんならそんなのもいるんだろうなぁって思ってさ。
あ、幽助くんの食事風景は見たくなくなったかも」
「安心しろ。俺は突然変異で人間食うのに興味ねぇよ」
「なら変わりないじゃん」
「希紗さん…肝がすわってるっていうか…」
「な、こういう奴なんだよ。希紗は。
へいっチャーシュー麺お待ち」
「いただきまーす」
のんびりと暴露
「ちなみに横で背ぇ向けて座ってる飛影も妖怪だぜ」
「あ、そうなんだ。可愛い妖怪だね」
「この女…殺す…っ」
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