「希紗♪」

仕事帰り、夕方のスーパーで私は偶然同僚と出くわした。

「ああ、おつかれ。買い物?」

「そっ希紗は?」

「あ…うん。私、も…」

実は昼食時、美味しいはずなんて絶対に有り得ない私のお弁当をいたく気に入ってくださった鬼畜上司…もとい、南野さんはとんでもないことを言ってきた。
今後も作ってきてほしい、と。
いや…南野さんのお母さんが全快するまでなら喜んで引き受けるさ。
『うちの息子、お昼どうしてるかしら…』なんて心配しなくても済むもの。
それで風邪もすぐ治って全快してくれれば私も、役目は果たしたっ借りは返したZE!とあっさりさっぱりこの気持ち悪い気持ちを切り離せると思ったのに『今後も作ってきてほしい』だと!?
ちょっ無期限すか!ふざけんなこの狐野郎ムキー!!

となりながらも本心は言えない悲しい部下というポジション。
くそー。移動の時期になったら絶対部署移動してやる。

そんなことを考えながら私は明日の弁当作りの為の材料とついでに今日の夕食をカゴの中にバシバシ叩き込んでいく。
……やば、卵大丈夫かな。

「聞いたよ希紗〜」

ニヤニヤする同僚。

「なにを?」

「南野さんとお昼一緒だったんでしょ!しかもお弁当まで作って!!
もう女子社員の間はその話で持ちきりだったんだからっ
『南野さんの部下が、やっぱり下心持ってた』って!
ね、ね、やっぱり南野さんに惚れたんでしょーう?」

「……………そう見える?」

「うわ。なにその『うわぁ…やだ』と言いたげな顔」

噂にはなるだろうなぁとは思ってたけど、まさかたった半日でそこまで広がるとは…
南野さんの人気はどうやら私が思ってた以上みたいだ。

「お昼一緒だったのは成り行きで、お弁当はほんの気まぐれ。
ほら…やっぱり上司だし、なんだかんだでお世話にもなってるんだしさ。
後1ヶ月ですが最後までお世話になりますっていう意味で渡したの。変に深い意味は全然ないよ」

…とは、限らないけど…
でもやっぱり、南野さんに憧れる女性達のような気持ちとは程遠いだろう。

「ふーん。まぁ、希紗が言うなら本当だろうね。
ずっと南野さん興味ないって言ってるし」

「うん」

商品をカゴに入れていく私の横をついて来る同僚。
しれっと私のカゴにお菓子なんぞ入れてきやがったからパシッと弾き出してやった。

「ケチー奢ってよー」

「両親と住んでる人が一人暮らしの人間にたかるってどうなの」

「あ、そうそう。この前温泉で言ってたやつなんだけどさぁ」

話題がコロリと変わる。
なんかちょっと脱力した。

「希紗、男らしい人が好みって言ってたよね」

「ん…まぁ」

「私の友達で希紗が好きそうな男の人いたから紹介するよ。
はい、これ彼のメルアドとケータイ番号ね」

と、渡してきたのは折り畳まれた白い紙。
正直あまり興味はないが付き合いとして受け取っておく。

「南野さんみたいな女の人みたいで綺麗な顔した男性も良いもんだよ〜?」

「好みは人それぞれってもんさ」

「ふーん。なんかもったいないなぁ…
じゃあね、また明日ねっ
あっその人にさっそくメールしてあげてよ!?楽しみにしてるみたいだからっ」

「はいはい。またね」

手を振って同僚と分かれる私。


違和感のある
不思議な罪悪感

手の折り畳まれた紙を見つめながら
「(なんでだろ…南野さんに悪いかなって思っちゃう)」
彼は関係ないのにね。




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