大型連休も終わり、通常通り仕事に追われる日々が戻ってきた。

でも…なんとなくだが、南野さんとの関わりがそんなに嫌じゃなくなった。
あくまでもなんとなくだが。

あんなこと言われたからと言って、人間すぐに割り切れるもんでもないし。
それに、今更……恥ずかしい。

だけどあの時の南野さんの言葉のおかげで気持ちが軽くなったのは、事実だ。
だから、なんか借りを作った気がして悔しいから
私はこの気持ち悪い気持ちをさっさと取り払うことにした。

「…はい」

「…え」

平日、社内に休憩という名の昼食時間が訪れ
先に休憩をとろうと席を立った南野さんに私はバックからそれを取り出し、彼の前に差し出した。

南野さんはキョトンとしている。

「なんですか?これ」

「お…お弁当…です」

「え…?」

「南野さんのお母さん…今、風邪ひいて寝込んでるって…昨日南野さんが言ってたから…
お弁当、いつも南野さんのお母さんが作ってるのにどうするのかなって思って…」

「…………」

「い、言っておきますけどっ
私…料理下手で…むしろ、嫌いっていうか…
だから、味とか…細かい所まで保証出来ませんよ。
見た目は、多分、普通…です」

「…………」

キョトンとしたまま動こうとも話そうともしない南野さん。
只でさえこの状況が恥ずかしいでたまらないのになんだこの放置プレイ。
イヤなのか?そんなにイヤなのか?
だったらいいよ。こちとらおかげで自信のない不味い弁当を食べさせずに済むから大喜びなんだハハン。
不味いもの食べさせて後々なんか言われるのもヤだしね。

そう思って私は差し出していた弁当を引っ込めようと腕を下ろした。
だが、いつの間にか手に持っていたはずの弁当が消えている。

「…え」

「貰うよ。ありがたく」

ハッと見上げればにこやかに笑う南野さんの手に差し出した弁当が握られていた。

「〜っ!」

「嬉しいな。母さん以外の女性から弁当作ってもらうだなんて初めてですよ」

「あ、味は保証しませんからね!」

顔を背けてさっさとデスクに置いてある書類と向き合う。

「早く休憩行ってきて下さい。
南野さんが帰ってこないと私が行けません」

ぶっちゃけ私が作った弁当を食べる南野さんの姿を見たくない。
朝早起きして慣れない包丁やフライパンと格闘していたバカバカしい自分を思い出して恥ずかしいから。
なのにこの上司ときたらどこまで上手で悪どいのか、爽やかな笑みでとんでもないこと言ってきた。

「一緒に食べませんか?」

「っえぇえ!?」

「俺と希紗の2人がいなくなっても、まだ君の幼なじみがいるから問題ないですよ」

「でも!あいつが良いって言うか…!」

話を聞いていたのか幼なじみは至って普通に『別に良いよ』なんて言ってきやがった。空気を読めえぇええ!!

「じゃあ、行きましょうか」

「だけど…!」

なんていうか、南野さんファンの皆様の視線がひっじょーに怖いんだよ!
別にそんな気ないのに勘違いされたらどうしてくれるんだこのある意味鈍感な盗人狐め!弁当の中身全部油揚げにすれば良かった!!

「はやくしないと昼休み終わりますよ?」

「いや、だからっ私は…
友達と…食べるんで…」

「上司の接待も部下の仕事です」

グイッと腕を引かれて無理やり立たされる。
そして彼は私のバックを持つと腕を引いてさっさと歩きだした。何故弁当が入ってることを知っている。

「面倒臭がり屋な希紗のことです。
どうせ俺の弁当を作るついでに自分の弁当も作ったんでしょう?」

「そんなんじゃないです」

「じゃあ…いつも弁当買ってたおかげで今月ピンチとかですか?」


慣れないだけで、ツンデレじゃないよ
「…………」
「え、本気で?俺の弁当作った理由もまさか…?」




- 18 -

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -