あっという間に南野さんは女性陣すべてを軽く負かし、ついに私との対決になった。

「うわぁ〜南野さんと希紗の対決だなんて…なんだか燃えるね!」

「2人とも素人なのに玄人級だもんっ」

こんな玄人いたらやばいぞ。
しかしあえて私は突っ込まない。

「…希紗」

「な、なんですか」

「勝負に負けたら、俺の言うこと聞いて下さい」

「…え」

囁くように小さな声で言ってきた為、私以外には聞こえなかったようだ。

「ちょ、ちょっと待…」

「いきますよ。酔っ払い」

「よっ酔っ払いじゃない!二日酔い!…わわっ」

抗議も虚しく強制的に試合開始される。

これか!嫌な予感の正体は!



















あっさり負けましたよ。

一点差だったけどなんていうかお情けでそうしてやったんだぞ感がひしひしと南野さんから伝わってくるんだコンチクショウ。

なんだあのプロ並の動き。
嫌がらせか?嫌がらせなのかこの野郎。
いくら元妖怪とはいえ卓球は関係ないじゃないか。

「運動神経が希紗より良いっていうだけですよ」

「(うぜぇ!)」

「そんなことより。
約束…もちろん覚えてますよね?」

にっこりと食えない笑顔を向けてくる上司に私は心の中で物凄く嫌な顔をする。

2人だけになりたいと彼に連れられた旅館の前の川には、私と蔵馬さんだけしかいなく、川の音だけが静かに流れる。

「……………。なんですか」

負けたものはしょうがないし、約束は約束だ。
顔を背けたままポツリと言うと

「上司に向かってその態度はないでしょう」

と、顎を掴まれグイッと無理やり顔を合わされた。顔、ちか!!

「離れて下さい!」

「しっかり聞いて下さいね。
俺の願いは……」

「(スルーかよ!)」

「1日、君の家に泊まらせて下さい」

「え。やだ」

「日取りはいつにします?」

ちょ、この上司耳ついてんのかな。
さっきからことごとく華麗なほどスルーされてんだけど。

「希紗は何故か俺を嫌ってますからね。
今後ともの上司と部下の関係を考慮した上で、その日1日かけて互いの誤解と関係の修復を試みよう思いまして」

「え、や、いいです。
新入社員である部下はとにかく上司の言いなりになればそれでいいんだよーぎゃはは。みたいな内容をどっかで見た気がするんで、これからもその精神に乗っ取って頑張ります」

「それじゃ意味がないでしょう」

「てか顔!顔が本気で近いです!」

蔵馬さんの胸をぐっと押して抵抗するがまるで意味がなく、微動だにしない。

「それに、上司と部下と言ってもそれは研修期間中だけであって
その後は部署を移動するかもしれないじゃないですか!
正直、今の部署なんとなく自分に合わない気がして部署移動考えてますし…!」

「…………」

「研修期間もあと1ヶ月で終わります。
あと1ヶ月我慢すれば良いじゃないですか。関わり辛いのはお互い様です。
南野さんだけじゃないんですよ」

「俺は一度も関わり辛いと思ったことない」

「……?」

「俺を避けてるのは君だろう?」

「っ……」

「それに研修期間が終わろうと部署が変わろと俺が君の上司であるのは変わりないんだ。
地位も経験も経歴も上。
それが上司だろう?」

「…………」

「それから、2人きりの時は?」

「………蔵馬さん」

そう言うと、彼はやっと顎から手を離し、離れてくれた。

「希紗、君は俺と初めて会ったあの時の出来事を深く考えすぎている」

「それは…」

だって、ある意味衝撃的なことだったんだし。仕方ないじゃないか。

「俺はあの時のことなんかさほど問題視してない。
俺のすべてを知っておきながら、君はなんだかんだ言いながらも他言しようとしないじゃないですか」

「それが…約束ですから…」

「だから俺は希紗を信用してる」

「…っ」

「疑ったり、監視したり…
そんな気はまったくないんですよ」

蔵馬さんはそう言って一人でに歩きだし、旅館に戻っていった。


暴かれた心情
一人その場に残された私は
ぼんやり川を眺める。
…なんだろう。なんか、スッキリした。




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