温泉から上がると女性陣はトランプなど遊び道具を持って男性陣が泊まる部屋へと向かった。
もちろん嫌がる私も引きずって。

彼女達の目的はどうせ南野さんだ。
そして案の定、部屋に入ると同時に南野さんは女性陣全員に囲まれた。

「あーあ、大変そう」

「羨ましい通り越して怖ぇよな」

ぼやく私に同僚が苦笑しながら同意してきた。

「お前は南野先輩に興味ないのか?」

「南野さんはただの上司」

「へぇ、珍しい。
じゃあいいや、なぁ…飲まねぇ?」

悪そうな笑みを浮かべて同僚がバックから取り出したのはお酒。

「え、まさかロック…?」

「なんだ、酒ダメか?お子様だな〜」

「なんだとバカ野郎なめんなよ」

正直酒は苦手だが、バカにされて引き下がるのも嫌だ。
私は酒を受け取って南野さんを除いた同僚達と飲み始めた。

そして一時間経ったぐらいに私の負けず嫌いの性格が祟り、すっかり酔いつぶれ気分が悪くなってしまった。

「やっぱりダメだったんじゃねぇかよ!」

「やかまひぃ…
うえ、気持ちわる…っ」

「しょうがねぇなぁ…」

同僚に肩を貸してもらい、私は部屋から出て旅館の中庭に向かった。
夜の涼しい風が火照った体にあたり、とても涼しく感じる。

同僚は私を近くにあったベンチに座らせると

「水もらってくるから待ってろ」

「んー…」

ぼんやりとした頭で曖昧に返事をする。

そしてしばらく一人で風にあたりながら同僚を待っていると

「うひゃ!?」

不意に冷たい水が入ったペットボトルが頬にあてられ、まったく油断していた私は慌ててその頬を押さえて変な声を上げた。

「な、なな…!?」

見上げるとそこにはペットボトルを持って不機嫌そうな浴衣姿の南野さんが立っていた。

「み、南野さん…っ」

「二人だけの時は?」

「…蔵馬さん…」

「そう」

彼は私に水を渡して隣に座ってきた。
私は居心地悪く感じながらもとりあえず水を飲む。

「…なに飲まされてるんですか」

「…バカにされて引き下がったんじゃ女が廃ります」

「無防備すぎます。浴衣だって他の女の子と比べてはだけ過ぎです」

「きつく帯を絞めたら苦しいんで」

「男がいるんですよ」

「男勝りな私に興奮する男なんているんですか?」

「…いるから、言ってるんですよ」

「…え?」

その時、突然花の良いニオイがしてきて同時に睡魔が押し寄せてきた。

「ちょっ…くらま、さ…」

こんな芸風、植物を操る彼にしか出来ない。
なんとか止めてもらおうとするが、アルコールが体内に入っている分睡魔は普通よりも早く私を呑み込み

「…おやすみ」

呟く彼の声を聞きながら、私はなすすべもなく眠りに落ちた。



















希紗の手に持たれていたペットボトルの水は滑り落ち、地面に落ちて水を流す。
すやすやと眠る彼女を見つめながら、蔵馬はまるで閉じ込めるようにその両脇のベンチの背もたれに手をついた。

「俺が興奮するんですよ」

はだけた白い胸元と太もも。
男にはない柔らかく白い体に蔵馬は胸が高鳴りすぎて痛いほどだった。

彼女を眠らせたのは間違いだっただろうか。
その太ももに、胸元に、視線だけで済んでいたものが無防備に晒されたことによりいたずらしたくなる。

「セクハラ上司…なんて異名はごめんですけど…」

我慢出来ず、蔵馬はすぅ…と撫でるように太ももに触れ少しだけだが更に浴衣の裾をはだけさせた。

「希紗…
君が悪いんですよ」

愛おしげに目を細め、無防備な薄く開かれ寝息をたてる唇に自分の唇を近づける。

「…愛してる」

後少しで重なる。

…しかし

「南野さ〜ん!」

突然聞こえた女性陣の声にハッとし、慌てて希紗から顔と手を離した。

「南野さんどうしたんですか?」

「あ…いえ、彼女が眠ってしまったもんで…」

「あーあ。希紗寝ちゃってる。
お酒苦手な癖に意地張って飲むから」

「え、お酒ダメなんですか?」

「そうなんですよ。
希紗はカルーアミルク一杯飲むのに30分はかかる人ですから」

「そう…なんですか…」

蔵馬はそう言って、内心で頭を抱えて深くため息をついた。


油断禁物な愛しい人
「(しっかり見張ってないとな)」
意地っぱりだからこそ、危険なんだ。




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