今日は祝日。カレンダー通りの会社はお休みだ。
お休みの時ぐらいお昼まで寝坊したいもんだ。
だから私はすっかり日が昇ってもベッドで眠っていた。
そうたとえ、玄関のチャイムが鳴っていたとしても。
チャイムを何度押しても出てこない事に蔵馬は少し不安になっていた。
部屋の中に気配はあるからいないわけではない。
以前妖怪に襲われたことのある相手だからこそ蔵馬は更に不安になり、不本意だが仕方なく植物のツルをドアの隙間から忍び込ませて鍵を開けた。
「希紗」
部屋の中は昼間だというのにカーテンが閉められて薄暗い。
そしてベッドにはすやすやと寝息を立てる希紗がいた。
「寝てたのか…」
ホッと安堵し、蔵馬は近くにしゃがみこんだ。
そして顔にかかっている髪を払いのけ、そのまま梳くように髪を優しく撫でた。
「ゆっくりおやすみ」
「んー…」
そろそろ頭が満足し、目が覚める。
『あー…蔵馬さんがいる…』とぼんやりとした頭で考え
「っ!?」
勢いよくガバッと起き上がった。
「蔵馬さん!?」
「おはよう」
「おはようございます。
じゃなくて、何度も聞きますがどうやって家に入ったんですかっ」
「俺だからです」
答えになってねぇ!
「とりあえず着替えてきたらどうです?
その格好…さすがに男の前ではどうかと…」
「蔵馬さんが勝手に入ってくるからじゃないですか!」
叫んで私は風呂場に飛び込んだ。
私の今の格好はキャミソールにショートパンツ、もちろん下着は着ていない。
急いで下着をつけ、まあ恥ずかしくない程度のTシャツにジーンズに着替え
ぼさぼさの髪を整えて戻ってきた。
「…なにか用ですか」
「この間休日なにしてるかと聞いてきたじゃないですか。実践しに来たんですよ」
「何度も言いますけどあれは私の友人が知りたがってたんです!」
「希紗が聞いてきたのは間違いないでしょう?」
そうだけども!
あーもー多分この上司にはなに言っても無駄だ。開き直ってやるふふん。
優雅に本なんぞ読んでやがるしこれ絶対出て行く気ないよね、間違いなく。
私は深くため息をつくととりあえずごちゃごちゃになっている机の上を整理し始めた。
散らかっているのは私が昨夜から明け方まで描いていた絵と画材や資料。
下書き段階やペン入れ段階、落書き程度のものなど様々ある数枚の絵をまとめ
散らばっている画材をしまう。そういえば昨日水彩使って着色してみたんだっけ?マスキングテープや絵の具があちこち転がってるしパレットも筆もそのまんまだ。
ガサガサと片付けていると、不意に後ろからひょいっと腕の中の絵を取られた。
「あ…?!」
「古い古城や教会、諸国の街並みや建物の写真集や資料が多いと思ったら…
やっぱり絵の参考文献だったんですね」
「…っ」
「あまり人間は描かないんですね。
大概ひとりかふたりだ」
「人体…難しくて。
特に間接が多い指とか手のバランスとか…
体だったら男女の体格の違いとか。
本当は、ヌードデッサンが一番いいんですけど…したことないし、やっぱりみんな嫌がるだろうから…」
「そういう時は人間観察が一番良いんじゃないですか?」
「え…?」
蔵馬さんは微笑しながら絵を返してきて、私はそれを受け取る。
「ヌードじゃなくても男の体格や顔つきはなんとなくわかってくるんじゃないですか?
俺は絵についてさっぱりだから分からないけど…
男のいい人間観察相手なら、君の身近にいますよ」
つまり、俺を見ろ。
「………誰のことですかね…」
「(まだ気付かないな。この様子じゃ…)」
*くるみ様リクThank you!
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