目を覚ますと、そこは私の家だった。

ベッドに寝かされ、身動きができない。…まるで金縛りみたいだ。

「目が覚めた?希紗さん」

ハッと声がする方を見ると優雅に足を組んで、私を楽しそうに見ている日下部さんの姿。

「っ……!?」

咄嗟に大声を上げようと思ったが声もでない。

「南野先輩…いや、蔵馬の言うことをちゃんと聞いてればこんなことならなかったのにねぇ」

クックッと日下部さんは笑う。

「〜っ〜!」

「それに、蔵馬だって信用しない方がいい。
あいつは伝説の極悪非道の盗賊だったからな。平気で嘘だってつくし、利用する。
お前のことだって騙して利用し、最後には殺すに決まっている」

「…………」

「いや…それとも喰われるかな?
俺のようにな」

日下部がニヤニヤ笑いながら立ち上がり、近づいてくる。

「さて、そろそろ腹が減ったな」

「……!」

「いい顔で死んでくれよ」

私の腕を掴み、大きな牙が生えた口が大きく開かれる。

「〜!〜!!」

出ない声で必死に叫んだ。

出ない声で必死に呼んだ。

……誰を?

「(蔵馬さん……ッ!!)」

「弁解もなく死にたいならそのまま喰え」

玄関付近から、声は聞こえた。

日下部さんと私はその方向を見る。

「その瞬間、貴様は俺の怒りを買うことになる」

怒りを露わにした蔵馬さんが立っていた。

「あれ?南野先輩どうしたんですか?」

「しらばっくれるな。幻魔」

「……………」

「貴様の正体は幻魔だろう。
幻魔獣のように相手に幻覚を見せる。違う所は、その幻は相手の心から読み取ったもので油断させて捕縛する。
貴様本来の姿は存在しないはずだ」

「…よく分かりましたね。さすがあの妖狐蔵馬だ。
…この姿、この女の好みみたいで騙しやすかったんですよね」

「…………」

「あんたみたいな女顔は興味ないってよ」

その時、素早く何かが日下部さんの体を通り抜けた。

「…!?」

彼の手には、トゲのついた鞭。

「姿はなくても、形があるのが貴様の弱点だ」

「貴…様…!」

「死ね。目障りだ」

幻魔と呼ばれた日下部さんだったものは、悲鳴もなく消え去った。



















「……………」

「……………」

蔵馬さんが薬草で作ってくれた薬を飲んで体の痺れはすっかりなくなったが、さっきから彼は無言のままだ。うーん、怒ってるなこれは。

「…だから言ったじゃないですか」

「うわ、しゃべった」

「本気で怒りますよ」

ジロリと睨んできた。

「俺の忠告を聞かないからです。
言っておきますが、うちの会社に日下部なんて名前の社員はいません」

「え…じゃあなんで他の社員の人達は違和感感じなかったんですか?」

「目当ての人物だけにしか幻覚を見せない妖怪ですから」

「…まさか私…日下部さんと話してる時独り言状態だったんですか」

「その通りです」

「でも蔵馬さんは見えてる…」

「俺も妖怪の端くれです。普通に見えます」

「……………」

「……………」

うわぁい。蔵馬さんはなんでも分かった上で私に気をつけろって言ってたんだ。
なのに私はあんな偉そうなこと言って……

「…すみません」

「……もういいですよ」

「………」

「無事なら、いい。
でも…あまり俺を心配させないでくれ」

「…蔵馬さん…?」

「君がいないと会社でパシれる人がいなくなるからね」

うん。そうだと思った。ですよねー。

一瞬でもときめいた私の乙女心を返せ。このエセ妖怪。


甘酸っぱい心境
「とにかくもう帰って下さい」
「泊まらせてもらうよ。電車がないから」
「いやあるんですけど。まだ7時ですよ?確実にあるんですけど。
ていうか電車で来るほど家遠くなかったですよね」

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