「今日の夜…希紗さんの家に来ていいかな?」

休日の朝、日下部さんからそう電話がきた。
もちろん私はOKを出した。

「いいですよ」

『ありがとう。じゃあ夜…』

「はい」

電話を切り、ため息をつく私。

あの日から心のわだかまりは消えていない。
日下部さんのことは信じてるけど…

「…愚痴りに行こ」

そう呟いて、私は簡単に準備を済ませるとある場所を目指した。

















やって来たのは幽助くんの家だった。
夜間業である彼は夕方である今起きたようで髪はボサボサだ。

「よぉ、希紗」

「幽助くん…」

「なんだよ。元気ねぇな」

「うん…」

「また蔵馬にいじめられたのか?
安心しろ。あいつはからかって遊んでるだけだからよ」

え。そうなんだ?
それについてはもっと聞いてみたい気がするが…

「違うんだけど…」

「…まぁ入れよ」

「うん…」

家に招き入れられ、中に入る。

リビングにいたのは温子さんの変わりに幽助くんの友人の桑原くんがいた。

「おっ希紗さんお久しぶりっす!」

「うん。久しぶり。
幽助くん、温子さんは?」

「出掛けた」

「そっか…」

テーブルのイスに座ると同時に幽助くんが私の前に紅茶を出してくれた。
私がコーヒー飲めないこともちゃんと分かってくれている。

「なんか希紗さん元気ないっすね」

「一体どうしたんだよ」

イスにドカッと座ってタバコに火をつける幽助くんと、コーヒー片手に心配そうに聞いてくる桑原くん。

私は日下部さんのことと蔵馬さんのことを話した。

「あーあ、蔵馬の奴…
調子こいてのんびりしてるから」

「でもまぁ蔵馬のことだから最後は逆転勝利しそうだな」

呆れる幽助くんと笑う桑原くんの意味が分からず眉を寄せる私。

「なんの話?」

「いや、なんでねぇよ。
とりあえず俺達はなんとも言えねぇよ。その日下部って奴に会ったことねぇからな。
だけど…」

「けど?」

「蔵馬が警戒するなら覚悟した方がいい」

「…!」

「あいつは敵と見なした奴には容赦ない。
小物だろうが大物だろうがな」

「そんな…」

「なるべく2人だけで会わないようにしろよ」

「っ…」

「そうっすよ!男は只でさえ狼なんすから!」

「私……っ」

今日、日下部さんと2人で会う約束しちゃったのに…!

「あ、ありがとう。私っ帰る…!」

「おっおい!希紗っ」

引き止めようとする幽助くんの声を無視し、彼の住むマンションから出て行く。

夕方の空は少しずつ夜の暗闇が迫ってきている。

私は走りながらバックから携帯を取り出すと日下部さんの番号を表示し、電話した。

少しのコール音の後『もしもし』と日下部さんが出る。

「日下部さん?」

『ああ希紗さん。どうしたの?』

「すみません…
今日の夜なんですけど」

『うん。今向かってるよ』

「急に、用事が出来ちゃって…」

『……………』

「会えない…です…」

電話の向こうの日下部さんは無言だ。

悪いことしちゃったな。

そう思いながらもひたすら走り、裏路地にさしかかった時だった。

「『困るなぁ』」

「!?」

重複して聞こえる声。

慌てて横の裏路地を見れば妖しく笑ってにこりと不気味に微笑む日下部さん。

「ひっ…!?」

思わず落とす携帯。

「もう迎えにきちゃったんだ」

「…………!!」

それから

私の記憶はなくなった。
















「突然どうしたの?幽助」

幽助から連絡をもらった蔵馬は幽助のマンションにやってきた。

「蔵馬、お前…希紗と会わなかったか?」

「今日は会ってませんけど…
というか、なんだか嫌われてしまったみたいで…」

「今日希紗ちゃんが来たんだけどよ。
なんか様子がおかしかったんだよ」

桑原が腕組みをしながら言う。

「え…?」

「日下部ってやつについて相談に来たんだ。
蔵馬から気をつけろと言われてどうして良いか分からないってな」

「…………」

「俺が、蔵馬が言うなら気をつけた方がいい。なるべく2人で会うなって言った途端、顔を青ざめて出ていったんだ。
なんとなく嫌な予感がしてな」

「……それ、どのくらい前の話ですか?」

「丁度一時間前だ」

「…捜しに行ってきます」

「お、おい蔵馬?」

「希紗は…恐らく敵の罠にかかったんだと思う」


虫の報せ
無事でいろ…今助ける…!




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