数日後、麦わら海賊団は秋島に着いた。

いつもとは違う、静かな到着だった。

普段なら新しい島をルフィがいち早く見つけ、それを仲間に知らせるとウソップやチョッパーと一緒に楽しそうに騒ぎながら島を目指す。
その様子をナミやロビン、ゾロとサンジが眺め、そして同じように胸を期待に弾ませる。

そんな賑わいの中に、セドナもいるはずだった。

相変わらずの無表情でキョトンとするだけの彼女を、ルフィが白く細い腕を掴み、目の前に見える島を指差して満面の笑みを見せる。
そして通じない言葉でひたすらはしゃいだ。

そんなルフィをセドナはやはり変わらない表情で眺めていた。

でも、時間は長くはないけれど一緒にいてルフィ達はセドナの小さな表情の変化に気付くことが出来ていた。

楽しげなルフィの姿を見ている時のセドナの表情は、とても柔らかいものだった。

ずっと一緒にいなければ決して気付けない変化。

その変化に気付けたクルー達はそれがなんだか誇らしく、特別なものだと思えた。

『セドナの心を理解出来るのは麦わら海賊団だけ』

と、心の中で自慢気に思えた。

これからもずっと一緒にいられる。

だから色んな表情を発見出来る。
色んな心を見られる。

そう思っていた。

けれど――…

そのセドナは、もういない。

死んでいるのか、生きているのかさえも分からない。

だけどあの時の状況を考えると望みは絶望的だ。

クルー達はどうしても明るい方に考えることが出来ず、みな最低限の言葉を交わすだけでいつものような賑やかさはなかった。

海を見て

空を見て

白い雲やカモメを見ては思い出す。

海を歩くのが大好きな、空色の目をした白い服を身に纏う白い肌の少女。
カモメを見ては追いかけていた、あのセドナの姿を思い出す。

ナミがセドナの為にと買った服も、思い出を呼び覚ますのには十分だった。

「…………」

島に到着したのに、誰も船から下りようとしない中、ルフィひとりだけが立ち上がり船を下りた。

そして島にある町へと歩きだす。

そんなルフィに、声をかける者は誰もいなかった…


















その島は小さな海軍基地がある割に、島民は海賊に対しての警戒心はほとんどなかった。

それはもしもの時の対応策、海軍という余裕からのものだろうか、ルフィを見てその正体に気付く者はいても通報する様子はまるでなかった。

その為、ルフィは大通りの真ん中を闊歩出来る。
それはいつものことなのだが…

大概は島にたどり着くと真っ先に食事へと向かうのに、今回は宛てもなくただひたすら歩いている。

「おい、聞いたか?」

「おう、聞いた聞いた。
白い服を着た女の子のことだろ?」

男性2人の会話が偶然耳に入り、ルフィは思わず立ち止まる。

「腹に穴が空いて血まみれだったんだろ?」

「おまけにしばらくの間海に漂ってたみたいでよ、完全に体が冷え切っていたようだ。
浜辺に打ち上げられていた所を保護されたらしいが…」

「ほんと、すげぇな」

「ああ。だってあの女の子……助かったんだろ?」

「ほんとか!!?」

「うわ!?」

ルフィがひとりの男の胸ぐらを掴んで叫ぶように問いかけた。

「なんだっお前!?」

「そいつっセドナって名前じゃねぇか!?
おれの仲間なんだ!」

いきなりの事に男2人は少しだけ怒りを覚えたが、ルフィの必死な表情と言葉にその怒りはあっさり収まる。

2人は顔を見合わせると

「さぁ…名前が分からなかったんだよ」

「なんせ聞いたことねぇ言葉で話すもんだからよ。
もしかすると人違いかもしれないぞ?」

「いや!セドナだ!
あいつも聞いたことねぇ言葉で話してた!!
青い目をした…白い服の白い肌をした…!」

「……一緒だな」

「ああ…あの女の子も青い目だったし、白い服を着てて…肌が異様に白かった」

「無事なんだな!?セドナは助かったんだな!?」

「お前のいう仲間がその女の子なら…安心しろ、女の子は奇跡的に助かったぞ。
女の子を保護した海賊団の医師が手術をして助けたんだ」

「海賊…?」

「ああ、女船長が率いる海賊団さ。
そこに手配書が貼られてるだろ?」

男はそう言って近くの壁に貼られている一枚の手配書を指差した。
ルフィは掴んでいた男の胸ぐらを離してその手配書を見る。

手配書の写真に写る女性は、気が強そうだがどこか優しさを感じさせる表情をしていた。

「懸賞金は低めなんだけどよ、悪い噂は聞いたことない」

「そうか…!それで、どこにいるんだ!?」

「それがよ、女の子が奇跡的に助かったことでちょっとした騒ぎになっちまって…
海軍にバレて今日出発だったのを少し早めて3日前に島から出航したんだ。
女の子も一緒にな」

「………」

「だからこの島にはもういないんだ」

「…そうか…」

少しだけ気落ちするルフィ。

その時、隣にいた男がなにかを思い出したのか

「そういえば…あの女の子の言葉、大半は分からなかったけど、ひとつだけ通じる言葉で頻りに女船長に伝えてたな。
…確か…『ルフィ、ルフィ』…って言ってたような」

「………!」



――ルフィ、ルフィ…iatia…!



「っ!」

ルフィは壁に貼ってある女船長の手配書を剥ぎ取ると

「ありがとな!!」

男2人にそう言って一目散に走りだした。

向かう先は――ゴーイングメリー号。

「生きてる…っセドナは生きてるぞ!」

沈んだ気持ちが一変して晴れやかになる。

早く仲間達にも知らせたい。

はやる気持ちに、ルフィの足は更に速まるのだった。






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