それから数日が経ったが、少女の名前は分からず終いだった。
そんなある日のこと。
「うわ!?」
夏島も間近という時に事件が起きた。
「ルフィ!?」
慌ててウソップが手を伸ばすが後少し届かなかった。
ウソップと釣りをしていたルフィが巨大な魚に釣り竿ごと持って行かれたのだ。
泳げないことは重々承知のルフィは咄嗟に腕を伸ばしたがまた強く引っ張られ、海に落ちてしまった。
「ルフィ!おいっしっかりしろ!!」
「どうしたのよウソップ」
「ルフィが落ちた!」
「なんですって!?」
ナミも慌てて近寄って海を見下ろす。
「チッ!あのバカ船長!」
ゾロが舌打ちをして助ける為海に飛び込もうと身を乗り出した時だった。
自分よりも先に海に飛び込もうとする少女の姿に誰もが驚いた。
「ちょっと待ちなさい!
なにもあなたが行かなくても!」
「お前はすっこんでろ!」
だが少女は通じないこともあってか聞く耳持たず。
あっという間に海に飛び込んでしまった。
「きゃあああ!」
ナミが叫び、思わず顔を両手で覆う。
たおやかな体をした少女だ。
こんな高さから海に落ちたらただではすまない。
誰もがそう思った。
だが…
「…おい。なんだあいつ…」
ゾロの声色にナミは不思議そうに顔を上げた。
そしておそるおそると海を覗き込むと
「……うそ…」
少女は何も問題なさそうに、平然と海の上に立っていたのだ。
そしてキョロキョロと周りを見回し、水面を軽い足取りで走る。
「普通じゃないのはなんとなく分かってたけど…
まさかここまでなんて」
「でも、ルフィは沈んでいったんだ。
水面を歩けても意味がない」
ウソップも少女を凝視しながら言った。
すると、走りまわっていた少女が水面のとある所でぴたりと止まる。
その場にしゃがみこんで、両手を海の中に入れると
「おい見ろ!」
ウソップが叫ぶ。
なんと少女は少し手を入れただけで、水風船のような姿になり気を失ったルフィを掬いあげたのだ。
「うそでしょ!?なんなのあの子!」
「悪魔の実の能力者か…?」
掬いあげた少女はルフィを引きずるように船へと連れて行く。
それを見たナミ達はロープの準備をし、甲板から垂れ幕のように垂らした。
少女はロープを掴み、ルフィにくくりつけた。
クルー達に引っ張られルフィはゆっくりと引き上げられる。
その間、少女はまたキョロキョロと周りを見回し
どこかへと走っていく。
ルフィはあっという間に引き上げられ、ゾロによって水を吐き出され、気がついたルフィは激しくむせながら体を起こした。
「たくっ気をつけなさいよ!」
「手のかかる船長だぜ」
「ヒヤッとしたぜ本気で」
「わり…
またゾロが助けてくれたのか?」
「…違うわ。
…あの女の子よ」
指がさされた方向を見るルフィ。
海をのぞきこむとそこにはルフィが落とした麦わら帽子と釣り竿を持った少女が水上に立ってルフィ達を見上げていた。
「なんだあいつ!すげぇ!!」
少女はナミが下ろしたハシゴをゆっくり登って、やがてたどり着いた。
気がついているルフィを見つけると麦わら帽子と釣り竿を渡しながら
「Safe?」
「おう。大丈夫だ!
ありがとな!」
ニカッと笑って釣り竿と麦わら帽子を受け取り、バスッと帽子をかぶった。
「なんで言葉が通じてんのよ」
「通じてねぇぞ。
勝手に想像してるだけだ」
「あのねぇ…」
「そんなことより!
なぁお前、仲間になれ!」
「…………?」
首を傾げる少女。
どうやら言葉が通じてないようだ。
「ちょっとルフィ…!
言葉が分からないのに彼女が理解出来るわけないでしょう!」
「じゃあもう仲間だ!おれが決めたっ」
自分勝手というか強引というか。
とにかく不思議そうな少女に対し無理やりな船長の決定に、ナミだけでなくゾロやウソップも呆れたように頭を抱えたのだった。
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