「でもルフィ、さっきの奴を倒すにしても居場所がわからないわ。
現れる時も分からないし…」
「そんなもん直接行ってぶっとばす!」
「だからその居場所が分からないっつってんのよ!
居場所が分からなきゃどうしようもないでしょうが!」
「でも、なるべく急いだ方が良さそうよ?」
「え?」
ナミは海を眺めているロビンを見る。
吊られるように他のクルー達もロビンを見た。
「見て。彼女を」
ロビンが指差す方向には海上にいるセドナ。クルー達は指されたセドナをよく見ようとロビンの横に並び、そして目を凝らした。
「え…うそ…」
「マジかよ…」
ナミとサンジが思わず声を漏らす。
海上にいるセドナは、海に立っていられずゆっくりと沈んでいたのだ。
「ちょっと…セドナ!!」
思わずナミが叫ぶが、セドナはゆっくり浸かっている足を海から出すと再び海上を歩き始めた。
どうやら立つことが出来なくなっただけで歩いたり走ったりするのに問題はないようだ。
とりあえず無事でいられるのだと安心したナミ。
「でも…なんでいきなり…」
「今まで全然平気だったのに!いきなり変だぞ!」
チョッパーも心配したように叫ぶ。
「前に彼が現れた時も…彼女に何かをして去って行ったわね」
「そう。それでいきなり倒れて…」
「そして、その日から彼女は睡眠をとるようになった」
『…!』
ロビンの言葉に全員が声なく驚愕し、語らずとも皆同じひとつの事実を予感する。
「今回は、海に立てなくなった」
「てことは…
もしかして、セドナの奴…」
ウソップの続かない言葉にゾロがはっきりと言った。
「力をとられてるな。あの男に」
「野郎…!妻とかふざけた事言っておきながらセドナちゃんに対してなんて仕打ちだ!」
「多分、『妻』は口実でしかないんでしょうね。
それに最初から言ってたわ。セドナの力が欲しいだけって…」
「力をとられて彼女の体に必要なかったものが必要になっている。なくなったものを補うかのように…
じゃあ、もし彼女の力すべてが奪われ、補う力が間に合わなくなったら…彼女はどうなるのかしら」
『…!!』
息を呑むクルー。
「ま…まさか…っ死…」
「やっやめてくれナミ!おれは考えたくねぇ!」
チョッパーが慌ててナミの言葉を遮った。
「っルフィ!どうすんのよ!
このままじゃセドナが…っセドナが!」
ナミは泣きそうになりながらルフィを勢いよく見る。
ルフィはまっすぐと海にいるセドナを見つめながらしっかりとした口調で言った。
「難しいことは考えねぇ。
セドナを自由にする為にカラス野郎をぶっとばす。それだけだ」
「でも!相手の居場所が…!」
「わかんねぇなら待つしかねぇだろ。
次こそはぜってぇぶっとばしてやる」
物怖じしない態度に力強い口調。
これが船長の威厳と信頼というものだろうか。ルフィの言葉にクルー達の不安はあっという間になくなり、『仲間の為に敵を倒す』というシンプルな想いで統一されたのだった。
海に立てなくなったその日から、セドナは甲板やデッキをうろつくようになった。
夜の暗闇が迫る黄昏時、外にサンジが作る夕食の香りが漂う中セドナはデッキに佇み、海をジッと見つめていた。
「やっぱり…ショックなのかしら。海に立てなくなったの…」
心配そうにナミがセドナを見つめながらロビンに話しかけた。
「そうね…表情には出さないけれど、やっぱり何千年も海と一緒だったんだもの。
彼女にとってはいきなり海から拒絶されたようなものなんでしょうね…」
「なんだか淋しそうで悲しげで…
可哀想で見てらんないわ。さっきからずっと海ばかり見つめてるんだもの」
「ほんとね…」
そう言ってロビンもセドナを見つめる。
だが、セドナを見つめていたのはナミとロビンだけではなかった。
「………」
ルフィもまたセドナを気にしてジッと見ていたのだ。
後部デッキの手すりに座った状態で、船首近くの前部デッキにいるセドナをルフィは見つめていた。
そしておもむろに立ち上がるとデッキの手すりを持ち
「…ゴムゴムの…」
手を伸ばしながら標準をセドナに合わせ
「バズーカ!」
一直線にセドナへと飛んでいき、そして静かに立っていたセドナを上手く抱くと
バシャーン!!
そのまま海へと落ちた。
「何やってんのよルフィ!」
一部始終を見ていたナミが甲板から顔を出して叫んだ。
海に落ちたルフィはもちろん沈みつつあった。
海上で座りこみ、やはり沈みかけていたセドナはそれに気づき、すぐに海から出て海上に立つとルフィを引き上げいつものように魚の道を作る。
海上に立つルフィとは違って、セドナは徐々に沈みつつある。
セドナはゆっくりとルフィの手を離す。…が
「ほら」
離れたその白い手を掴み、ルフィは引いて自分が立つ魚の道にセドナを立たせた。
「………」
「立てるじゃねぇか」
「…」
呆然とルフィを見つめるセドナ。
ルフィは『にししっ』と満面の笑みを浮かべると
「どんなに真似したってな、本物には適わねぇんだよっ」
――だから、自信持て。
ルフィがそう言って再び笑いかける。
「……」
セドナはどんな想いでルフィの顔を見つめているのだろう。
彼女は、ただきゅっとルフィの手を握り返しただけだった。
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