賑やかな食事も落ち着いてきた頃、全員揃っているからとロビンが話し始めた。

「崩れてしまった古城なんだけど…」

「なにか分かったの?」

真剣な表情になるクルー達。
だがルフィとセドナは違った。ルフィはわしわしと料理を忙しそうに口に運びながらロビンを見つめ、セドナは状況が分かってない為か見向きもせず静かにパンを食べている。

「あの古城、何千年も昔に海の女神を讃えるものとしてつくられたものよ」

『!!?』

「う…海の女神って…!」

ちらりとパンをパクつくセドナを見るナミ。

「彼女を讃えるためなのか、別のものなのかは分からないけれど…昔の人にとって海が起こす波や津波は神が起こしているものと考えていた。そして海から捕れる魚などの魚貝類も神からの恩恵だとも。
この辺の海域にあるほとんどが昔から伝わる神話や伝説を大切にして、それを伝えていこうとする信仰の高い島が多いの。今現在は少しずつ薄れてるのかもしれないけど…昔は異常なほどの崇めようだったようよ」

ロビンは一息つき、近くのお茶を一口飲む。

「その良い例が、『生け贄の少女』」

『!……』

ナミとチョッパーが息を呑む。

「昔の古城は入れるようにはなっていたけど、人の出入りはなかった。それはあの古城の目的が海の女神の家だったから。
海からの恵みがいつまでも豊富であるようにと願い、その願いを叶えてくれるお礼として海の女神が住める城を作った。だから人間が勝手に出入りしては失礼だと考えてた。
…でも、ある日海が大荒れに荒れ、島すべてが呑み込まれそうなほどの波が何日も続いた。漁も上手くいかず、人々は海の女神の怒りだと考えたわ。
その怒りの原因はなんのかを考え、やがて『たった一人で人間の為に働く女神が疲れはてているのだろう』という根拠もない結論に達した。
そして、女神の助太刀と称した生け贄を一人差し出そうと…」

『……………』

「女神へと差し出す生け贄の条件は、長く仕えられるようにと若い女の子と決まった。
そして…町の噂で聞いたたった一人の女の子、その子が生け贄として城へ差し出され、少女が逃げ出さないよう外へと通じる出入り口はすべて、特殊な力をもつ石で作った壁で封じられた…」

「……生け贄がたった一人で済んだのは、どうして…?」

「生け贄を差し出してから数日経った後に波がおさまったから。それから再び荒れることもなく平和な毎日が続き、生け贄の話から数百年後に波が荒れた原因が航海士によって解明されたの」

「生け贄にされた女の子は、無駄だったってことか…」

「当時の島の住人の心を安心させたという面を考えたら無駄ではなかったのかもしれないわね」

新しいタバコに火をつけながら呟くサンジにロビンが言う。

「セドナ…もしそのこと知ってたら、その女の子助けたかもしれないな…」

「そうね…」

チョッパーとナミがきょとんとしているセドナを見る。
そしてウソップに差し出されたお茶を受け取って飲んでいた。

「そのことなんだけど…
私は『生け贄の少女』は彼女じゃないかと考えてるの」

『!?』

ロビンの発言に全員が驚いてロビンを見た。

「でも、あの古城は海の女神であるセドナの為に…!」

「とある遠い島の仮説で、『神隠しにあった者は神隠しになる』というものがあるの」

「…?神隠し?」

「いきなり人がいなくなることを神隠しというの。
その島の昔の人は神に連れて行かれたからいなくなったと考え、『神隠し』と呼ぶようになったようよ」

「そんなのがあるんだ…」

「私の想像でしかないけど…
その『神隠し』の仮説も含めて考えるなら、『生け贄の少女』は彼女じゃないかしら?
海の女神の神話にも書いてある通り、彼女も昔は人間だったみたいだから」

「やっぱり…っセドナが生け贄の…!」

ナミが青ざめる。そして震える声で

「人間として一度死んで…なんらかの方法で海の女神として蘇ったってこと…?」

「あくまでも私の想像だけど」

無言になるクルー達。
だがルフィだけは違った。口に含んでいた食べ物を飲み干すといつもと変わらぬ口調で

「よく分かんねぇけど…
つまりこの島はセドナの故郷ってことか?」

「今の話が本当ならそうだな。
でも何千年も昔の話だぜ?」

「何千年経ってようが故郷は故郷だ、ウソップ!
しししっなぁんだ、セドナにはちゃんと故郷の島があったのかっ」

「でも、その故郷の人々から殺されたも同然なのよ…?生け贄として城に閉じ込められて…っ」

「雪振る冬島で寒い思いをしながら、たった独りという淋しい孤独を味わいながら
食べ物もなく餓死していったんだろうな…」

サンジで思いつめるように呟く。

「…セドナ…かわいそうだ…」

悲しげに顔を歪め、セドナを見つめるチョッパー。

だがルフィは

「それこそ昔の話だろ。
今はおれ達がいるじゃねぇか。セドナは独りじゃねぇ」

「そうだけど…」

「腹が減ったんなら食えばいい。サンジが旨い飯を作ってくれる」

「あ…ああ。おれはコックだからな」

「淋しいなら遊ぼう!冒険しよう!
そしたら淋しくねぇ!……セドナっ」

ルフィは勢いよくセドナを見る。

「お前は独りじゃねぇ!分かったか!」

きょとんとするセドナ。
言葉が分からないのだろう。

しかし

「………」

白い手を伸ばし、セドナはルフィの手をキュッと握った。

通じあったのだろうか。

ルフィはそんな彼女の行動を嬉しく思い

「にししっ見ろ!ちゃんと分かってるじゃねぇかっ」

自慢気にクルー達に笑う。

そんな二人の姿に、クルー達も知らずと笑みを零したのだった。






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