言葉の通じない少女に、海賊は手を持て余していた。
「本当にどうしようかしら。
名前を知る所か言葉が通じないなんて」
困ったようにナミはため息をつく。
「身よりが分からないんじゃ下手に島に置いて行けないしなぁ」
そう言ってウソップが唸って少女を見る。
少女はウロウロと興味深そうに甲板の上を歩き回っていた。
濡れた体にはナミが持ってきたバスタオルがかけられている。
「どうしたもんかしら…」
「おい見ろ!この魚デッケェぞ!」
「あんたはもうちょっと状況の深刻さをわきまえなさい!!」
のんきに釣りをしていたルフィにナミは力いっぱい叫んだ。
だがそんなナミなどどこ吹く風。
ルフィは『怒る意味が分からない』と言いたげに
「なにが深刻なんだ?」
「あの子のことよ!
名前も身よりも、言葉すら通じないあの子をどうするの!」
「どうするって、この船にいりゃいいじゃねぇか」
「言葉が分からないのよ!?」
「んなのなんとかなるだろ」
ルフィはそうあっさりと言って『おーい!』と少女を呼ぶ。
少女は呼び声に気づくと小走りで近づいてきた。
「見ろよこの魚!デッケェだろ!?」
少女はしばらくキョトンとした目で魚とルフィを見つめる。
「お前、魚嫌いか?」
ズイッと魚を目の前に持っていく。
「…………」
無言で少女は魚を見つめると
「……No」
首を左右に振った。
それを見たルフィは歯を見せるような満面の笑みで
「しししっ嫌いじゃないってよ!
ほら見ろ。言葉わかんなくても通じたじゃねぇか!」
「あんただけよそんなの!」
しかし会話が成立した事態を目の当たりにし、ナミも内心希望を持って優しく話しかける。
「えーっと…ね…ねぇ」
ナミを見る少女。
「あなた、名前は?」
「…………」
「あの…名前。な ま え」
「…………?」
首を傾げる姿に、言葉の意味が通じてないのがわかる。
「あー…わかんないかな。えっと…」
「おれルフィってんだ!」
「ちょっとルフィ!?」
「ルフィだぞ?ルフィ!」
「…………」
「わかったか?」
「……Yes」
少女はコクリと頷いた。
「ほーら通じた!
ナミ、お前頭わりぃんじゃねぇの?」
「あんたに言われたかないわよ!…たく…。
…名前を聞くのは諦めるしかないわね。
じゃあ、私の名前はナミ」
「…?」
「ナミ、ナミよ。よろしく」
「……Yes」
再び頷いた。
「…通じた…!」
その事にナミは深く感動した。
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