「どう?トニーくん。なにか分かった?」
「…特にこれといった症状は見当たらないな…」
カラスから現れた黒い男が去ってすぐ、倒れたセドナは医務室に運ばれて診察を受けた。
目覚めないセドナを心配してかナミやロビンはベッドを囲むように立ち、男性クルー達は医務室の外で待っている。
「…あ」
ナミが声を漏らす。セドナが目覚めたのだ。
セドナは体をゆっくりと起こした。
「セドナちゃん!大丈夫かい!?」
部屋の外にいたにも関わらずサンジが部屋に入ってきてベッドに走り寄り、他の男性クルー達もぞろぞろと入ってきた。
「セドナ、大丈夫…?」
顔を覗き込みながらナミが問う。
「That person was made angry.」
ナミ達には、言葉が通じない。
だが様子を見る限り割と平気そうなのでひとまず安堵した。
「なんだったのかしら…さっきの男」
「あんなクソ野郎がセドナちゃんを妻にするなんて許せねぇ!」
「それに、セドナが海の女神っていうのも信じられないな」
ウソップの言葉にクルー全員が同意する。
だが一人だけ、同意しない者がいた。
「いいえ。多分彼が言っていたことは本当よ」
「どういうこと?ロビン」
「さっき私が話しかけた内容…彼が言っていた内容そのものなの」
「!?」
「彼女が教えてくれた『sedna』という文字を調べてみたら、イヌイット神話でよく見かけるイヌクティトゥット語であることが分かったの」
「イヌ…?」
「難しい名前だな」
眉を寄せるサンジと呟くウソップ。
「だから私はイヌイット神話を調べてみたの。
そして本の内容の中に地母神であり人間の祖でもある海の女神について書かれていたものがあったの。
そして、その海の女神の名前がセドナ」
「……ウソ…
じゃあまさかそのセドナって…」
「彼女のことでしょうね。きっと」
「おいおい。人間の祖ってことは…
おれ達のご先祖様はセドナってことか!?」
ウソップの言葉にその場の全員が黙り込んだ。
「…その、もし本当だったとして。
どうして女神がこの海域にいるの…?」
「彼女は海の女神よ?海そのものが彼女の居場所。
だけど、この近くの海域はよく神話の話の舞台として出てくるみたいなのよ。だからこの海域にいても珍しくないのかもしれないわ。
…そして、彼女が私達のような言葉を話せないのはずっと広大な海で一人でいて島を見つけきれなかったからじゃないかしら。人との関わりを知らなければ言葉も覚えられないわ」
「…おれ聞いたぞ」
今まで黙り込んでいたルフィが突然言う。
「聞いたって…なにをだよ」
腕組みをしたゾロが問う。
「この島、昔悪い海賊に占領されてたらしくてよ、その時助けてくれた海賊がシャンクスだったらしいんだ」
「…………」
「占領していた海賊達の目的は『神捜し』って言ってたぞ。
なんか、まだ神が生きているかもしれないから『しんわ』が息づくこの海域にやってきたらしい」
「……それ本当なの?」
「ああ。セドナと一緒に聞いた」
「『神捜し』…
その海賊、つまりセドナを捜してたってことかしら」
「彼女だけとは限らないわ。
神話が息づく海域なら、海の女神の他にもまだ生きている神がいるかもしれない」
「私達は運よくその中の一人であるセドナを見つけられたってわけね…」
クルー達はしばらく絶句してベッドの上のセドナを見つめる。
あれだけ知りたかったセドナの正体があまりにも壮絶過ぎて言葉が出ないようだ。
これからどう接していいのかも分からない。
誰もが一瞬脳裏によぎった時だった。
「よくわかんねぇけど。船長のおれが仲間って決めたんだ。
セドナは仲間だ」
『………』
「おめぇらだって仲間と思ってんだろ?
思ってねぇならぶっとばす!」
ルフィの言葉に、全員は思い出した。
「…バカねぇそんなことあるわけないじゃない!」
「セドナちゃんは大変な仲間さ」
「セドナにはなにかあるって分かってたしな」
ナミとサンジ、ウソップの言葉に同意するようチョッパーとロビンは頷く。
「女神だろうと仲間だから遠慮する必要ねぇ」
勝ち気な笑みでゾロが言った。
そんなクルー達の反応にルフィは『しししっ』と笑う。
セドナは
ただじっと全員の姿を見つめているだけだった。
※追記※
話の中でヒロインの言葉はイヌクティトゥット語と記してありますが、実際に書かれてある言葉はただの英語です。
ただしイヌクティトゥット語やイヌイット神話、海の女神セドナの話は実際に存在します。
あくまでモデルにしているだけで連載とはまったく関係はないので、読んでみると面白いですよ(^^)
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