昨日は全然眠れなかった。主に花ちゃんからのメール返信が嬉しすぎて。こりゃ今朝の一限は爆睡確定だわ。欠伸を噛み殺してチャリアカーを引く。

「高尾、昨日は勝手に高嶺にメアドを教えてすまなかったな」
「えッ。全然よかったよ?!!むしろありがとう!!」

っていうか真ちゃんこそよかったのだろうか。花ちゃんのこと好きなはずなのに、俺と彼女の仲を受け持つような役しちゃってさ。ま、別に真ちゃんがいいならいいんだけど。ていうか、むしろそっちのが好都合−−なんて考えてしまうのはいけないことだろうか。

「…やはり俺は、高嶺のことは好きではないようだ」
「なに?真ちゃん、なんか言った?」

呟いた真ちゃんの言葉は確かに聞こえていた。聞こえないふりをしたのは咄嗟の判断。とくに意味なんてないけど、なんとなく。真ちゃんはしばらくだんまりしたあと「何でもないのだよ」と静かに答えた。



教室に上がるとすでに花ちゃんが席に着いていた。今日も今日とて綺麗な黒髪を一つに縛っている。デレデレしそうになるのを必死に堪えながらおはようと挨拶する。

「高嶺さん、数学の宿題やった?」
「え……、そんなのありましたっけ」
「あった、あった。俺やってあるから、写す?」
「そんな、悪いです。それに、自分の力でやらないと。……数学って、何限でしたっけ?」

よっしゃあ、花ちゃんとふっつーに話し出来てるぞ俺。いい兆候だぞ俺。このまま極自然な流れでマネージャーの話をすれば、完璧だ。

「四限だよ。ところで高嶺さん、マネージャーすんの?」

よし、自然な流れだぞ俺。よくやった俺。GJ、俺。花ちゃんを見るとちょっと困ったように笑っていた。すいません、と頭を下げる。途端ふわりと香る屋さん匂い。うわ何だこれ!!相当いい匂いなんだけど?!興奮する俺をよそに花ちゃんは顔を上げた。

「…やっぱり、私はマネージャーにはなれません」
「………」

そう言った花ちゃんは、なんだか今朝の真ちゃんと同じ雰囲気がした。

「…そ、っかー!!そっか、そっか!やっぱ無理だったか。何か、ごめんね?」
「謝るのは私のほうです」

本当にごめんなさい。もう一回頭を下げた花ちゃんに、何か境界線のようなものを張られた気がした。


全く二人とも素直じゃない。ノートもとらずぼんやり考える。真ちゃんは絶対、花ちゃんのことが好きで、それは昨日の帰りに判明した。花ちゃんも花ちゃんで、絶対にバスケ部のマネージャーがしたいんだ。それは昨日花ちゃんが部活に来たとき、先輩マネージャーの話を聞いているときに判明した。

(どうしたら二人とも素直になれんだ??)

考えても考えても、二人の関係すらまともに知らない俺に答えが出ることはなかった。


140608.